課題番号35

坂本隆⼀(核融合科学研究所)

核融合プラズマにおける粒⼦閉じ込めと粒⼦供給のパラドックス

磁場閉じ込めプラズマにおける粒⼦制御

カテゴリー: A1, A2, B6, B11, B12

⽬指すもの(output)︓

- 磁場閉じ込めプラズマを構成する元素の挙動の理解

波及(outcome)︓

- 磁場閉じ込め核融合プラズマにおける粒⼦制御と燃焼制御シナリオの確⽴

課題35イメージ

同位体⾮混合状態(上)と混合状態(下)における径⽅向-位相速度空間における密度揺動分布.Ida et al[3].

磁場閉じ込め核融合炉では,磁⼒線に拘束される荷電粒⼦の性質を使って,⾼温プラズマ(熱と粒⼦)を閉じ込めており,「良い閉じ込め特性」は核融合プラズマの必須条件である.⼀⽅で,核融合プラズマの中⼼部では,核融合反応によって⽔素同位体がヘリウムへ変換され続けるため,⽔素同位体を供給し,ヘリウムを除去しなければ,燃料希釈によって核融合反応が持続できない.プラズマ閉じ込め磁場は,燃料粒⼦の供給とヘリウムの除去も妨げてしまうため,核融合炉では「悪い閉じ込め特性」が望ましい︖というパラドックスに陥ってしまう.

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これまで,そして現在の「燃焼を伴わない」磁場閉じ込め核融合研究では,粒⼦供給の重要性には触れずに,外部加熱制御によるプラズマの閉じ込め特性向上に主眼がおかれてきた.ところが,将来の燃焼プラズマにおいては,核融合反応によって⽔素同位体からアルファ粒⼦(ヘリウム)と中性⼦への変換と,それに伴うエネルギー⽣成がプラズマ特性を⽀配するようになる.そのため,プラズマ中⼼部への継続的な⽔素同位体燃料の供給が,燃焼プラズマを維持するための重要な制御⼿段となる.また,プラズマを加熱し終えたヘリウムがプラズマ中に蓄積すると,燃料希釈によって核融合反応率を低下させるため,速やかなヘリウム除去も重要な課題である.

⾼温⾼密度のプラズマ中⼼部へ⽔素同位体を供給するためには,磁場を横切って,密度勾配を遡りながら粒⼦を供給する必要があり,拡散的描像では粒⼦供給をすることができない.この粒⼦供給の⼆律背反を解決するためには,内向きの対流などによるプラズマ中⼼部への粒⼦輸送機構が必要となる.⼀⽅で,内向きの対流はヘリウム除去と相反するばかりではなく,プラズマ壁相互作⽤によってプラズマ周辺部で発⽣する不純物の蓄積なども引き起こす.

この相反する要求を緩和させるための⼀つの⽅法として,固体⽔素ペレット⼊射によるプラズマ中⼼部への直接粒⼦供給が研究されている.また,乱流によるプラズマ構成イオンの撹拌効果や選択的輸送効果が粒⼦の供給や排気に及ぼす影響が,最近の研究で明らかになりつつある.

[1] R. Sakamoto and H. Yamada, “Prospects for Self-Burning Operation in Heliotron-Type Fusion Reactor”, IEEE Transactions on Plasma Science 44 (2016) 2915.

[2] M. Nakata et al., "Multi-species ITG-TEM driven turbulent transport of D-T ions and He-ash in ITER burning plasmas", IAEA FEC proc. (2016) TH/P2-2.

[3] K. Ida et al., "Transition between isotope-mixing and non-mixing states in hydrogen-deuterium mixture plasmas", Physical Review Letters 124 (2020) 025002.