課題番号4

井⼾毅(九州⼤学)、⽥村直樹(核融合科学研究所)

⾮平衡系に現れる⾮局所性の起源は︖

磁場閉じ込めプラズマにおける輸送の⾮局所性

カテゴリー: A1, A2, B2, B3, B4, B5

⽬指すもの(output)︓

- 輸送の⾮局所性の起源の解明

- 異なる時空間スケールを持つ現象間の相互作⽤の検証

波及(outcome)︓

- 核融合炉⼼プラズマの性能予測の⾼精度化

- ⾮平衡系の物理学の発展

課題4イメージ

磁場閉じ込めプラズマにおいてはエネルギーの外部からの注⼊、伝達、外部への排出により構造が維持される⾮平衡系である。⼤部分の熱は密度や温度等の物理量の勾配が駆動する揺らぎによって運ばれるので、物理量と勾配が分かれば局所的な揺らぎと熱の伝達は理解できると期待される。しかし、実際には揺らぎの性質や熱伝達は必ずしも局所的な描像では説明できない。この⾮局所性は、様々な時空間スケールを持つ現象が内在する⾮平衡系の特徴であり、その理解は⾮平衡系の輸送過程の理解を促し、また核融合炉の性能予測の⾼精度化に寄与すると期待される。

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古典的な熱及び粒⼦輸送の描像では、注⽬する場所における局所的な物理量によって輸送係数が決まるため、輸送を局所量のみで評価できる。輸送を引き起こす素過程の特性⻑(乱流の相関⻑や粒⼦の軌道幅)がプラズマの圧⼒分布等の勾配⻑に⽐べて⼗分短い場合はその評価は有効であると予想される。しかし、現実には局所量だけで説明できない現象が現れる。例えば、Dimitsシフトと呼ばれる乱流が駆動される温度勾配の閾値のシフトや、変調加熱実験で測定される熱流束と温度勾配の関係に現れるヒステリシスは、局所量に対して輸送が⼀意に決まらないことを⽰している。また、磁場閉じ込めプラズマの周辺領域を過渡的に冷却すると、通常の熱の伝達では説明できないほどの短時間でプラズマの中⼼付近の温度が“上昇”し始めるという不思議な現象が観測されており、プラズマの周辺部と中⼼部を繋ぐ⻑距離相関の存在を⽰唆している。このような“輸送の⾮局所性”の起源として、帯状流など⻑距離相関を持つ揺らぎと乱流の相互作⽤に基づくモデル(上図)、臨界勾配に近づくと雪崩のような⼤規模な熱伝達が発⽣するモデル、乱流の空間的広がりに基づくモデルなど様々な考え⽅が提案されているが、定量的な検証には⾄っていない。⾮局所性を含む輸送のメカニズムの理解には、輸送を引き起こすミクロスケールの乱流と、⻑距離相関を持ち乱流と相互作⽤する可能性があるメソスケール、マクロスケールの過程を同時に調べることが必要不可⽋である。今後、計測器や数値シミュレーション⼿法の発展により、その理解が⼤きく進展すると期待される。

[1] 岸本泰明, 他, ⼩特集「プラズマの⾮局所輸送現象と様々な構造形成」, プラズマ・核融合学会誌, vol. 78, No. 9, 857-910 (2002)

[2] K.Ida, et al., Nucl. Fusion, 55, 013022 (2015)

[3] 岸本泰明, 現代物理のキーワード「⾮局所性と⼤域性に⽀配されるプラズマ乱流」, ⽇本物理学会誌 Vol. 73, No. 7, 454-455 (2018)