課題番号5

仲⽥資季(核融合科学研究所)

異なる物質はプラズマ中でどう混ざる︖

プラズマ閉じ込めの⽔素同位体質量効果と多種イオン混合

カテゴリー: A1, A2, B3, B4, B6

⽬指すもの(output)︓

- 燃焼プラズマ中の燃料分布や不純物分布の決定メカニズムの解明

波及(outcome)︓

- 核融合出⼒の⾼精度予測と制御

- 多成分流体・プラズマの混合過程のモデル化

課題5イメージ

重⽔素(⻘)、三重⽔素(⿈)、ヘリウム(⾚)の温度揺らぎ(各⾊の発光で表現)

核融合炉における燃焼プラズマは、燃料となる重⽔素・三重⽔素や燃焼から⽣じるヘリウムなどが混在した多種イオン混合プラズマである。プラズマ中の燃料イオンなどの密度⽐やその分布は燃焼特性を左右するのみならず、質量の違いがもたらす作⽤を介して、エネルギー・粒⼦の閉じ込め特性にも強く影響を与える。「同位体効果」と呼ばれる質量差の作⽤は、際⽴った単⼀の現象ではなく、イオン質量に依存する様々な素過程が絡み合う複合現象であることが次第に明らかとなり、多種イオンの混合状態を含む全容解明にはさらなる精密な理論・実験研究が求められる。

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核融合燃焼プラズマは、燃料である重⽔素と三重⽔素、そして反応⽣成物である⾼エネルギーヘリウム(アルファ粒⼦)や、それが熱化したヘリウム灰などから成り、異なるエネルギーを持つ多種イオンが混合された状態にある。現存の実験装置では純度の⾼い⽔素プラズマの閉じ込め特性に加え、不純物イオンの挙動や⽔素同位体イオンの質量効果(同位体効果)が探究されてきたが、複数イオン種の密度・温度分布や揺らぎの時空間構造を同時的に計測することが重要となる。多くの実験において、イオン質量の⼤きいプラズマで閉じ込め性能が向上する「同位体効果」が観測された。しかし、なぜイオン質量が閉じ込め特性に影響を与えるのか︖その背後にあるメカニズムは何か︖といった全容の解明は40年以上にわたる未解決問題であった。閉じ込め⽅式に依らず、炉⼼プラズマの輸送特性は乱流輸送現象に⼤きな影響を受けることが明らかになった今⽇では、乱流輸送に対するイオン質量差の作⽤を、電⼦とイオンを同時に扱う⼤規模な乱流シミュレーションや軽⽔素・重⽔素プラズマ実験によって精⼒的に研究している。同位体効果は際⽴った単⼀の現象に由来するのではなく、プラズマ中の粒⼦軌道や⾳波、粒⼦間衝突といった、イオン質量に依存する様々な素過程が複合的に絡み合って⽣じていることが次第に明らかとなり、その全容解明には、さらなる精密な理論・実験研究が求められる。計測技術の進展が新たな発⾒も与えている。最新の荷電交換分光計測では、プラズマ中の⽔素同位体イオンが、拡散的な時間スケールよりも速く、⾮⼀様状態から⼀様な状態へと混合されることが観測された。そのメカニズムについてはまだ多くの謎を含むが、「燃料イオンは拡散的に⼀様等分的な混合状態に⾄る」というこれまで多くの場合で想定されてきた仮定を超えた、核融合燃焼プラズマの新たな姿を捉える研究の進展が期待される。

[1] ⽥中謙治ほか、“LHD における輸送の同位体効果“、プラズマ・核融合学会誌 97, 3(2021)

[2] K. Ida, M. Nakata et al., Phys. Rev. Lett. 124, 025002 (2020)