課題番号50

岡⽥信⼆(中部⼤学)、⽊野康志(東北⼤学)、他

ミュオン触媒核融合研究の新展開

負ミュオンを⽤いた持続的エネルギー⽣成技術

カテゴリー: A2, A3, B9, B15

⽬指すもの(output)︓

- ⾶⾏中ミュオン触媒核融合の実証

- ⾼効率なエネルギー回収を可能とするガス循環型ミュオン触媒核融合炉の実現

波及(outcome)︓

- クリーンで持続可能エネルギーの⽣成

- ⻑寿命核分裂⽣成物(LLFP)低減・資源化

課題50イメージ

ミュオン触媒核融合の概念図

負ミュオンとは、電⼦の 200 倍の質量をもつ負電荷の素粒⼦で、⽔素原⼦に静⽌させると電⼦と置き換わり 1/200 の半径を持つコンパクトな中性原⼦を形成する。このため容易に別の⽔素原⼦核に近づき、ミュオン分⼦状態を形成後、核融合反応を起こす。反応後、放出されたミュオンは再びミュオン分⼦をつくり次々と核融合反応を繰り返すため「ミュオン触媒核融合」と呼ばれている。脱炭素社会に向けた持続可能エネルギー⽣成技術としての可能性だけでなく、核融合中性⼦を⽤いた⻑寿命核分裂⽣成物(LLFP)の低減・資源化への応⽤技術としても注⽬されている。

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ミュオン触媒核融合(μCF)は、負ミュオンがトリチウムと「ミュオン原⼦︓tμ」を⽣成後、D2 分⼦中の重陽⼦と「ミュオン分⼦︓dtμ」を形成し、分⼦内にて dtμ → 4He + n + μ +17.6 MeVを起こすことで実現する(Vesman 機構)。ミュオンの寿命は∼10-6 秒と短いため、1 ミュオン当たりに可能な核融合サイクル数が重要であるが、これを律速するのが分⼦形成に要する反応速度(∼10-8 秒)であり、核融合で得られるエネルギーはミュオン⽣成の実効的エネルギーの半分程度であった。最近、少数多体系の理論的研究の進展により、速いパス(∼10-11 秒)でミュオン分⼦共鳴状態 dtμ*(dμ + t 閾値より 2 keV 上の準安定状態)が形成され、その解離過程から 1 keV程度の運動エネルギーをもつ tμ または dμ 原⼦を⽣成できることが分かってきた。これらのミュオン原⼦を利⽤すると、従来の μCF 過程に加え、これとは全く異なった機構による(律速過程の分⼦形成を経由しない)「⾶⾏中ミュオン触媒核融合(In Flight μCF; IFμCF)」も可能になる。上図は、D2/T2 混合気体中に IFμCF 反応場としてのマッハ衝撃波⼲渉領域を⽣成するガス循環型のミュオン標的のデザインで、⾼効率なエネルギー回収を可能とする。現在、この新たなμCF 過程の実証実験や、μCF より得られるエネルギーや中性⼦利⽤に関する⼯学的⾒地からの検討が精⼒的に進められており、μCF 研究は今、新たな局⾯を迎えている。

[1] N. Nagamine and M. Kamimura, Muon Catalyzed Fusion: Interplay Between Nuclear and Atomic Physics, Adv. Nucl. Phys. 24 (1998) 151. (doi : 10.1007/0-306-47073-X_3)

[2] KEK HP (ミュオン触媒核融合): https://www2.kek.jp/imss/msl/muon-tour/fusion.html

[3] A. Iiyoshi et al., Muon catalyzed fusion, present and future, AIP Conference Proceedings 2179 (2019) 020010. (doi : 10.1063/1.5135483)