課題番号51

⼩林真(核融合科学研究所)

核融合炉が拓く応⽤技術

核融合炉の宇宙・中性⼦源応⽤

カテゴリー: A2, A3, B15

⽬指すもの(output)︓

- 核融合エネルギーによる宇宙開発・先進医療等への貢献

波及(outcome)︓

- 核融合炉を基盤とした社会システムの構築

課題51イメージ

核融合エネルギーによる宇宙推進

核融合エネルギーは⼤出⼒のベースロード電源となるだけでなく、その膨⼤なエネルギーをロケットや衛星の推進⼒に変換することで宇宙開発に利⽤することが検討されている。また、核融合炉で⼤量に発⽣する⾼いエネルギーを有した中性⼦を活⽤し、先進放射線治療、放射性医薬品製造、原⼦炉で問題となる⻑半減期核廃棄物の減容化など、豊かな社会発展に⼤きく貢献することが可能である。核融合炉の⼩型化・効率化によりさらに広く積極的な利⽤が可能となるため、核融合反応の維持と両⽴できる炉設計研究が急がれる。

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核融合エネルギーは化学反応や原⼦核反応などと⽐べて単位質量当たりの発⽣エネルギー量が⾮常に⼤きい。このエネルギーにより低燃費で⼤推進⼒を得て、宇宙開発へ貢献することが期待される。核融合エネルギーを使⽤することで、例えば、既存技術では数年を要する地球から⽕星への⾶⾏時間を数カ⽉に短縮でき、宇宙線による被ばくの低減が可能であることから、有⼈宇宙探査においては核融合エネルギーの利⽤は必須と考えられている[1]。

核融合炉では核融合プラズマ内で⾼速中性⼦が発⽣し、この中性⼦を炉壁で受け⽌め、その運動エネルギーを利⽤して発電を⾏う。そのため、核融合炉では外部からアクセスのし易い炉壁付近において、原⼦炉や加速器中性⼦源と⽐べて圧倒的に⾼い中性⼦束が得られるため、中性⼦を積極的に利⽤した応⽤が展開できると考えられる。例えばホウ素中性⼦捕捉療法では⾼い中性⼦束により短期間でのがん治療が可能となる。また、中性⼦の医療分野への有効利⽤には、核変換による放射性医薬品の原材料製造が考えられる。放射性医薬品は特定の臓器に集まる化合物に放射性同位元素を結合させ、放射性同位元素から放出される放射線の分布を画像化することで病気の診断に⽤いるものである。医療の充実により⽇本でも多くの放射性医薬品が利⽤されているが、例えば 99Mo のような放射性同位元素は海外から輸⼊しており、その安定調達には⼤変な努⼒が注がれている。核融合炉で発⽣する⾼エネルギー⾼中性⼦束場により放射性同位元素を効率的に製造することが検討されている[2]。核融合炉を核変換に積極利⽤する応⽤として、原⼦⼒発電所で⽣成した⻑半減期の放射性同位元素の短寿命化が挙げられる。上で説明したとおり、核融合反応で発⽣する中性⼦はそのエネルギーを保ったまま炉壁に到達するため、この⾼エネルギー中性⼦により⻑半減期の放射性同位元素を核変換し、短寿命核種に変換することができる。これにより⻑期間に渡って管理しなければならない放射性廃棄物の⼤幅な減容化が可能と期待される[3]。

そのほかに、核融合炉の⽣成物であるヘリウムやトリチウムは超低温冷媒や原⼦⼒電池などに利⽤できる。いずれの応⽤においても、核融合反応の維持と両⽴できる炉設計研究が急がれる。

[1] 中島秀紀ほか、「新たな宇宙開発を拓く核融合技術 核融合ロケットの開発へ向けて」、プラズマ・核融合学会誌 83 (2007) 264-294.

[2] 太⽥雅之ほか、A-FNS 計画における 99Mo/99mTc 製造の概念検討, ⽇本原⼦⼒学会論⽂誌 (2018)

[3] Y. Furudate et al., Construction of minor actinides reduction scenario in Japan utilizing fusion reactors, Prog. Nucl. Energy, 103 (2018) 28-32.