課題番号52

高橋俊樹(群馬大学)

核融合中性⼦を使った未来の癌治療

⾰新的静電型プラズマ閉じ込め⽅式による⼩型中性⼦源開発

カテゴリー: A2, A3, B15

⽬指すもの(output)︓

- 中性⼦源の⼩型化・⾼強度化

波及(outcome)︓

- ホウ素中性⼦捕捉療法への応⽤

課題52イメージ

⼩型中性⼦源を⽤いた BNCT の概念図

(参考⽂献[2]の図を⼀部変更して作成)

中性⼦は物性の基礎研究から材料内部構造イメージングなどの産業利⽤などに幅広く利⽤されている。中性⼦源としては原⼦炉や 252Cf 等の放射性物質が従来使⽤されてきたが、近年は⼩型加速器をベースとした中性⼦源開発が進捗している。ここでは、数 MeV のオーダーまで加速した陽⼦や重陽⼦を Li や Be ターゲットへ照射し中性⼦を発⽣する。これに⽐べて D-D 等の核融合反応はより低い⼊⼒エネルギーで中性⼦を発⽣するので、中性⼦源の⼩型化に活⽤できる。⼩型化・⾼強度化の実現で、先進ガン治療であるホウ素中性⼦捕捉療法(BNCT)を地域医療に展開できる。

----------------------

中性⼦は物性研究や産業応⽤など幅広い領域に利⽤されているが、近年、先進ガン治療のホウ素中性⼦捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy: BNCT)の応⽤にも期待されている。BNCTは、ホウ素を含む薬剤を腫瘍細胞にのみ選択的に取り込ませ、熱または熱外中性⼦を照射、10B(n,α)7Li の⾼エネルギー荷電粒⼦で腫瘍細胞を破壊するガン治療法である。BNCT に利⽤する中性⼦源として従来は原⼦炉が利⽤されてきたが、現在では加速器を⽤いた中性⼦源の研究が進捗している。ここでは、陽⼦や重陽⼦を数 MeV のオーダーまで加速し、Li や Be ターゲットへ照射することで中性⼦を発⽣しているが、D-D や D-T 等の核融合反応を利⽤することで更なる⼩型化を⾒込める。また、閉じ込めプラズマ中の核融合による中性⼦源は、体積効果に伴う発⽣数の増⼤を期待できる。地雷探査への応⽤も期待されている慣性静電閉じ込め(IEC)はその⼀つである。IECや同軸円筒電極を⽤いた中性⼦源は、企業でも開発され製品化されている。これらに加えて、直線磁場で安定化した静電閉じ込め重⽔素ビームプラズマによる BNCT 中性⼦源の提案もある。治療には 109/(cm2秒)の中性⼦束が必要とされているため、⽬標の中性⼦発⽣数への到達を⽬指して開発が進められている。

[1] 吉川潔ほか、解説「慣性静電閉じ込め核融合研究の現状」、プラズマ・核融合学会誌 83、795-811 (2007).

[2] 櫻井良憲ほか、解説「中性⼦を⽤いた次世代型がん放射線治療︓ホウ素中性⼦捕捉療法(BNCT) 原⼦炉から⼩型加速器へ」、⽇本原⼦⼒学会誌 61、469-473 (2019).