課題番号6

佐⽵真介(核融合科学研究所)、藤⽥慶⼆(総合研究⼤学院⼤学)

プラズマが不純物を⾃ら吐き出す条件を探る

新古典・乱流輸送理論の拡張による不純物ホール現象の解明

カテゴリー: A1, A2, B3, B4, B5

⽬指すもの(output)︓

- 不純物ホール現象のメカニズムの解明

- 新古典・乱流輸送モデルの拡張

波及(outcome)︓

- 不純物蓄積を抑制する最適化配位の研究

- 計算機科学・数理科学との連携

課題6イメージ

拡張された新古典シミュレーションで得られた、磁気面上のポテンシャル分布(左)と、炭素不純物の密度分布(右)。両者の位相のずれが新古典フラックスを生む。

核融合炉のプラズマ中には、重⽔素・三重⽔素の他、核融合反応で⽣じるヘリウムや、炉壁材料のタングステンなど、多くのイオン種を含む。重い不純物イオンほどプラズマ中⼼に蓄積すると従来の輸送理論では予測されてきたが、それに反する「不純物ホール現象」が実験で⾒つかった。核融合炉の定常運転実現には不純物の蓄積抑制が必要不可⽋である。不純物ホール現象が⽣じる条件やその背景にある物理機構はどのようなものか︖それらの解明を⽬指して、輸送シミュレーションモデルの拡張が試みられている。

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トーラスプラズマ中の輸送現象は、荷電粒⼦のドリフト運動とクーロン散乱による「新古典輸送」と、微視的乱流による「乱流輸送」に⼤別される。3次元磁場配位では、新古典輸送は電場に対し強く依存し、電⼦とイオンの粒⼦フラックスが釣り合うように、径⽅向電場(径電場)が⾃発的に形成される。従来の新古典輸送理論では、核融合プラズマの径電場は通常負になると想定され、電荷の⼤きい重イオン種ほど負電場に引かれてプラズマ中⼼部に蓄積すると予想される。しかし、LHD 実験では負電場の形成が予想されるプラズマにおいて、不純物イオンが外向きに⾃発的に吐き出される「不純物ホール現象」が観測された。その解明のために乱流輸送モデルを多イオン種に拡張したが、やはり不純物は内向きに輸送されると分かった。そこで新古典輸送モデルに対しても拡張が⾏われた。重要なポイントは、3次元磁場中のドリフト運動を正確に解く事と、イオン密度の磁気⾯上の僅かな⾮均⼀性に起因する静電ポテンシャル分布の考慮である。拡張モデルによる⼤規模シミュレーションの結果、従来の計算と異なり中⼼から外に向かって負電場→正電場と切り替わり(観測と傾向が⼀致)、不純物イオンの新古典輸送も外向きになることが予測され、不純物ホール現象の解明に近づいた。

このように、⻑年「デファクト・スタンダード」となっていた理論モデルでは説明できない現象を、より詳細なモデルに拡張することによって解明することは理論シミュレーション研究の醍醐味と⾔える。拡張された輸送モデルを⽤いることで、不純物イオンの蓄積を抑制する核融合炉の磁場配位の設計や運転シナリオの構築の研究につながると期待される。乱流輸送と新古典輸送の相関が不純物輸送に与える影響にも関⼼が持たれるが、そのためには計算機科学の精髄を尽くした超⼤規模シミュレーションの開発や、強い⾮線形性を持つ現象の解析をするための数理科学の⼿法を取り⼊れた展開が期待される。

[1] K. Fujita, S. Satake et al., Journal of Plasma Physics vol.86, 905860319 (2020)