課題番号8

仲⽥資季(核融合科学研究所)、松⼭顕之(量⼦科学技術研究開発機構)

突発的な崩壊現象やその予兆を解き明かせ

ディスラプションのダイナミクスの解明と予知・制御・緩和⼿法の構築

カテゴリー: A1, A3, B2, B5, B12

⽬指すもの(output)︓

- 崩壊現象前後を包含するシミュレーション

- 実験検証や予知・制御⼿法の構築

波及(outcome)︓

- 原型炉におけるディスラプション回避シナリオ

- 突発現象のモデリング⼿法や予測⼿法の構築

課題8イメージ

ディスラプション発⽣時にプラズマ内部で乱れる磁場構造

炉⼼プラズマには様々な振幅を伴った突発現象が存在する。なかでも、プラズマ中に蓄積された熱や電流が突発的に消失する崩壊現象はディスラプションと呼ばれ、ITER 級の装置では炉内機器へ⼤きな熱負荷や電磁⼒を与えるため、その早期検知や回避・緩和が不可⽋となる。ディスラプションは何にトリガーされ、その後どのようなダイナミクスを経て、どの程度炉内機器へ作⽤するのか︖ディスラプションの研究は、連鎖的に絡まり合う⼀連の⾮線形現象を解きほどき、突発現象の予兆をいち早く捉えて制御するための様々なモデルを統合化する研究と⾔える。

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トカマク核融合炉の運転領域に強い制限を与える現象にディスラプションがある。ディスラプションは単⼀の現象ではなく、トリガーとなる不安定性に加え、蓄積エネルギーの損失、プラズマ電流の損失、そして、対向機器や真空容器壁への熱的・⼒学的影響といった⼀連の⾮線形現象が複雑に連鎖している。蓄積エネルギーを急激に損失させる熱消滅(Thermal Quench)はMHD 不安定性、不純物の蓄積、誤差磁場などに起因する揺動の成⻑が引き起こすと考えられている。その後、電気抵抗の急激な増⼤により、閉じ込め磁場を⽀えるプラズマ電流が損失される電流消失(Current Quench)へと連鎖する。その際、トロイダル電場によって相対論的なエネルギーまで加速された逃⾛電⼦が雪崩的に増幅しながら発⽣する。炉⼼プラズマはそれを取り囲む導体壁との電磁的相互作⽤の下で垂直位置移動現象(VDE)と呼ばれる急速移動を⽣じ、構造物に多⼤な電磁⼒負荷を⽣じる。ディスラプションは機器保全への影響の⼤きさからITER では早期検知や回避・緩和が重要となる。現在の実験研究では⼀連の現象を詳細に計測することが難しく、ディスラプションの予兆現象からトリガー、発⽣後のダイナミクスを模擬するための直接数値シミュレーション研究の進展も期待される。トカマク核融合炉の研究開発としては、プラズマ物理及びデータ科学的⼿法を駆使し、ディスラプション発⽣後の影響を最⼩化するための機器開発(Massive Material Injection など)や制御⼿法、早期検知の研究の更なる進展も求められており、その成果はITER 実験の成功や原型炉設計の進展を⽀えるものである。特に、トリガー機構の詳細解明とそのモデル化、そして予測・抑制⼿法との統合化に関して、より⼀層活発な理論・実験・機器開発に関する研究が動機づけられる。

[1] 河野康則ほか、解説「ディスラプションを制御する〜物理現象の理解と制御技術の進展」、プラズマ・核融合学会誌 86(2010)3-6

[2] 松⼭顕之、解説「トカマクディスラプションにおける逃⾛電⼦回避に向けた理論モデリングの現状」、プラズマ・核融合学会誌 95 No.12(2019)589-595