課題番号9

佐藤雅彦(核融合科学研究所)

巨視的不安定性をいかにして抑えるか

運動論的効果に着⽬した巨視的不安定性の抑制⽅法の探究

カテゴリー: A1, A2, B1, B2, B5, B13

⽬指すもの(output)︓

- 巨視的不安定性の抑制

- ベータ限界の向上

波及(outcome)︓

-多階層間相互作⽤の理解

課題9イメージ

巨視的不安定性の中を駆け巡り、安定化させる粒⼦運動

核融合炉の実現には、プラズマを⼤きく変形させうる「巨視的不安定性」の抑制が不可⽋である。巨視的不安定性の理解は、プラズマを流体とみなすモデルを⽤いて⼤きく進展してきた。さらにその理解を進め、我々が不安定性を⾃在に制御するためには、流体モデルでは無視された個々の荷電粒⼦の運動の効果を考えることが重要となってくるであろう。このような粒⼦的描像から巨視的不安定性を捉えることで、流体モデルでは説明できない新たな抑制メカニズムを発⾒でき、さらに⾼い圧⼒を持つ⾼性能プラズマの実現が可能になろう。

----------------------

核融合炉では⾼温⾼密度のプラズマを安定に維持する必要がある。そのためには、プラズマ中で発⽣する様々な巨視的不安定性(磁気流体⼒学(MHD)不安定性)を抑制しなければならない。巨視的不安定性を解析するための代表的な物理モデルは、プラズマを流体とみなすMHD モデルである。しかしながら、MHD モデルでは説明できない現象が数多く存在する。例えば、トカマクプラズマ中の抵抗性壁モードの安定化に必要なプラズマ回転速度は、MHD 理論予測値よりも⼩さい。また、LHD の内寄せ配位では、圧⼒勾配駆動型モードがMHD 理論予測よりも穏やかである。このような問題に対し、MHD モデルでは考慮されていない運動論効果、すなわち、プラズマを構成する個々の荷電粒⼦の運動を考慮する重要性が指摘されている。その他、内部キンクモード、ELM、アルフヴェン固有モード等、トーラスプラズマ中の巨視的不安定性だけでなく、宇宙プラズマでの無衝突リコネクションなど、巨視的不安定性に対する運動論効果の研究は幅広く進められている。このような粒⼦的描像から巨視的不安定性を捉えることは、ITER 等の核燃焼プラズマにおいて、ますます重要になると考えられ、運動論効果を取り⼊れた巨視的不安定性の解析モデルを発展させていく必要がある。これにより、流体モデルでは説明不可能な、新たな不安定性抑制メカニズムの発⾒が可能となろう。核融合炉は⾼ベータ(磁気圧に対するプラズマ圧⼒の⽐)での運転が求められる。ベータ値は圧⼒起因の不安定性で制限されるが、運動論効果を考慮することで、流体モデルで予測されるベータ限界以上の⾼ベータ値が得られる可能性がある。また、核融合プラズマは、MHD 特性と輸送特性が共に良好でなければならない。運動論効果を取り⼊れた解析モデルの進展は、MHD と輸送を⽭盾なく結合した解析にも寄与するものと期待される。

[1] 内藤裕志他, 「磁気流体現象と運動論的効果」, プラズマ・核融合学会誌 77 (2001) 547

[2] ⽩⽯淳也, 「プラズマ回転による抵抗性壁モード安定化に関する理論・シミュレーション研究の進展」, プラズマ・核融合学会誌 94 (2018) 183

[3] 佐藤雅彦, 研究最前線「圧⼒勾配が駆動する不安定性のハイブリッド・シミュレーション研究」, NIFS NEWS No.251 (2019) 6