はじめに

プラズマ・核融合科学分野のコミュニティが⼀丸となり、これまで蓄積されたプラズマ科学・核融合科学・核融合炉⼯学の学術知⾒や 2030 年代以降に取り組むべき学術課題を俯瞰する「プラズマ核融合サイエンスチャート」を作成し、将来展望・ビジョンの構想を活性化する。このような⽬的の下に「2030 年代以降を⾒据えたプラズマ・核融合科学の学術課題検討会」(FUSION2030 研究会)が 2020 年4 ⽉に旗揚げされ、精⼒的な活動が進められている。

本学術課題集「核融合プラズマのサイエンスとその拡がり」は、上記研究会の下で展開されている、Fusion Plasma WG(FPWG)の活動成果として取り纏めたものである。核融合プラズマの学術(サイエンスと技術)課題の魅⼒・難しさ・未解明な謎・将来の課題・新展開などに焦点を置き、52の記事として分野内外へ向けて発信される。そのため、「プラズマ核融合サイエンスチャート」の基礎資料としてのみならず、広く公開するものとした。多様な研究トピックを1ページ記事に凝縮する試み故に、関連研究を参考⽂献として列挙し尽くせなかった点は容赦頂きたい。その代わりに、専⾨外・分野外の研究者や初学者にとっての学術的興味のエントランスとなる、関連の深いオープンアクセスの解説記事を挙げることに努めた。

核融合炉の研究は、新たなエネルギー源の実現という明確な⽬的を持って 1950 年代に創始された研究である。当初は 20 年程度で実現されるであろうと楽観的に予想されたが、現在もその挑戦は続いている。多くの学術的・技術的課題に取り組んできた結果として、⾼温プラズマのダイナミクスや物質・光との相互作⽤などの複雑多彩な振る舞いが紐解かれた。新たな知⾒と技術を積み重ねることで、⽬的研究として⽣まれた研究は”エネルギー源の実現”という幹から様々な⽅向に枝葉を伸ばし、“プラズマ物理・核融合科学“という広⼤な学術領域を形成する形で進化を遂げている。このような進化と発展を強調するため、カテゴリーによる課題の類別に加え、“⽬指すもの(output)”と“波及(outcome)”も明⽰した。これらによって、「核融合炉の実現に資する研究」のみならず、「核融合プラズマの難問から諸科学・社会へ拡⼤する研究」という様々な⾊彩を持った学術課題のアピールを試みるものである。

さて、「52 の研究課題から眺望する学術的ランドスケープ」という副題を掲げた。副題に⾜るだけの重要課題を⼗分に取り上げたか︖未解明の謎や難問をエントランスとした諸科学への展開を鮮明にアピールできたか︖これらの点は改善の余地を残すだろう。しかしながら、本学術課題集を端緒のひとつとして、研究者や次世代を担う学⽣らが、ここから俯瞰される共通性、あるいは、不⾜している観点にそれぞれの思いを巡らせ、未来を語り合う議論や対話が巻き起こることを⼤いに期待している。その中での“気づき”や“視点”から⽣まれる新たな研究構想や、より豊かな眺望を⾒晴らすランドスケープを描くアクティビティが活性化するかもしれない。僅かながらでも、そのような創造の連鎖の⼀助となれば幸いである。

最後に、本学術課題集は FPWG メンバーおよび協⼒著者のひとかたならぬ尽⼒に加え、多くの研究者との議論から成り⽴っている。特に、FUSION2030 研究会代表の森芳孝⽒(光産業創成⼤学院⼤学)および世話⼈の坂本隆⼀⽒(核融合科学研究所)をはじめとする、研究会幹事の⽅々、そして研究会へ参加頂いたプラズマ・核融合研究コミュニティの研究者の⽅々へ、⼼から感謝の意を表したい。

Fusion Plasma Working Group 取り纏め 仲⽥資季