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平成25年11月25日
高速イオンによる加熱効率を詳細に評価する -実験解析コードの整備-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合発電を実現するためには、高温・高密度のプラズマを効率よく閉じ込めることが必要です。そして、高温・高密度のプラズマを生成・維持するために、多くの場合、高速イオンによりプラズマを加熱しています。そのため、高速イオンの振る舞いやプラズマ加熱効率を調べることは重要で、理論に基づく計算予測を用いて実験結果の解析が行われています。今回は、大型ヘリカル装置(LHD)において行われている、高速イオンによるプラズマの加熱効率を評価する解析コードの開発について報告します。

 LHDでは主に、高速の水素原子をプラズマに打ち込むことにより、高速のイオンを生成しています。高速イオンはその名の通り、プラズマ中のイオンよりも大きなエネルギーを持って速く動きます。プラズマはドーナツ型の磁力線のカゴに閉じ込められていますが、高速イオンも磁力線に巻きつきながらカゴの中を動き回り、周りのプラズマを加熱します。そのため、高速イオンの加熱効率や高速イオンがどの場所を加熱しているのかを調べることは、プラズマの閉じ込め性能を解析する上で重要です。高速イオンの動く道筋を「軌道」と言い、プラズマ中の高速イオンの軌道を計算機シミュレーションすることにより、高速イオンが効率よくプラズマを加熱できているのか、加熱位置がどこかを予測することができます。将来の核融合炉では、核融合反応により生成される高速のヘリウムイオンがプラズマを加熱・維持するので、高速イオンの振る舞いを予測することは、核融合炉の設計においても重要です。
高速イオンの軌道の予測は、家庭でも使われているパソコンやその高性能版のスーパーコンピュータなどを使用した数値計算により行われていますが、より精度高く予測できるように、高度な解析コードの開発が行われています。LHDでは、磁力線のカゴから飛び出た高速イオンの一部が再びカゴの中に入る現象が観測されています。従来のコードでは、カゴから飛び出た高速イオンは全て損失したものとしていましたが、より高精度な解析のため、カゴの外の領域における高速イオンの軌道を考慮した加熱効率の評価コードを開発しています。この評価コードを使用して解析したところ、高速の水素原子をドーナツ型のプラズマに対して接線方向に入射した場合は、プラズマ閉じ込め磁場の強さを小さくすると、磁力線のカゴを出ても再び入る高速イオンが増加し、垂直方向に入射した場合は、プラズマの圧力が高くなると、磁力線のカゴを出ても再び入る高速イオンが増加することがわかりました。また、このような高速イオンが多数存在するプラズマでは、従来の評価に比べて、加熱効率が最大で2~3割増加することもわかりました。
このように、加熱効率を評価するコードに対して、実験観測に基づいて計算範囲を拡大して精度を向上させることにより、実験結果をより詳細に解析することが可能となりました。今後は、こうした解析コードの整備を進めて、将来の核融合炉に向けたプラズマの閉じ込め性能の予測精度をさらに向上させます。

以上