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平成25年12月9日
より強く、より軽く、よりスマートに -核融合炉の構造設計-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合科学研究所では、将来の核融合発電を目指したヘリカル型核融合炉の概念設計を進めています。核融合炉は大型ヘリカル装置(LHD)の3~4倍の大きさとなるため、機器を支える構造物は十分強固であるとともに、ヘリカル型特有のねじれた形状のものを支えることを考えて設計しなければなりません。しかし、頑丈にすることだけを考えると、内部に部品を設置したり、交換したりするために必要な開口部が小さくなったり、全体が重くなりすぎたりしてしまいます。今回は、ヘリカル型核融合炉の設計研究を進めるに当たり、こうしたことを考慮して、超伝導マグネットを支持する構造物をどのように設計しているかについて紹介します。

 将来の核融合炉では、プラズマを閉じ込めるために、超伝導マグネットに非常に大きな電流を流して強大な磁場を発生させます。電流と磁場は、フレミングの左手の法則として知られているように、お互いに作用し合って力を発生し、電流と磁場が強ければ強いほど大きな力がマグネットに働きます。ヘリカル型核融合炉の場合、この力は1メートルあたり数千トンにもなって超伝導マグネットを変形させようとするため、構造物で超伝導マグネット全体を囲むように補強します。超伝導マグネットは極めて低い温度で運転されるため、それを支持する構造物も同じく低い温度にする必要があります。そのため、補強のための構造物には、低い温度でも強度の高いステンレス鋼を使います。また、パーツを溶接によってつなぎ合わせて非常に大きな構造物にするため、パーツの材料は溶接可能な厚さでなければなりません。一方、強度を確保するためには材料を厚くする必要がありますが、構造物全体の重量にも直結するため、それが重すぎると支えるのも冷やすのも大変になってしまいます。さらに、構造物には、プラズマを生成するための真空容器を設置する空間や、その容器の中に必要な機器を出し入れするための大きな窓(開口部)を複数確保する必要があります。
このような様々な要求を満足する構造物を設計するためには、構造物のどの部分にどのような大きさの力が働いているのかを詳細に計算する必要があります。具体的には、3次元CADで正確に構造物のモデルを作り、それを非常に細かい要素に分割して、一つ一つの要素にかかる力と変形をコンピュータを使って計算していきます。ヘリカル型核融合炉の場合、3次元的で複雑な構造のため、全体を数百万の要素に分割して計算しています。そして、計算の結果、材料にかかる力や変形が大きすぎる場合は、その部分を補強したり、力が集中しないような形状に変更したりして、よりよい構造物のモデルを探して再計算を繰り返します。このようにして設計を進めることにより、超伝導マグネットに発生する強大な力を安全に支えることができ、同時により軽く、大きな開口部を持った、ヘリカル型核融合炉の構造物の形状を決めることができました。特に、開口部を大きくできたことは、3次元形状のヘリカル型核融合炉のメンテナンスを考える上で重要なポイントとなります。
今後は、さらに軽くできないか、より簡単に作れないか、もっと強度を大きくして磁場を上げられないかといった検討を行い、ヘリカル型核融合炉の最適化に向けて研究を進めていく予定です。

以上