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平成26年1月27日
水素の氷をプラズマに打ち込む -固体水素ペレットによる粒子供給-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 将来の核融合発電では、高温のプラズマに外部から燃料ガスを供給することにより燃焼を維持するとともに、高温プラズマを制御します。そのため、効率のよい燃料供給法の確立は重要な課題で、プラズマの元となるガス粒子を様々な方法で供給して,プラズマになる様子が調べられています。今回は、大型ヘリカル装置(LHD)において行われている、水素の氷(固体水素ペレット)をプラズマへ入射する粒子供給実験について報告します。

 現在行われているプラズマ実験では、通常、プラズマにガスを吹きかけて、プラズマに粒子を供給していますが、この方法は効率が悪く、吹きかけた粒子の10分の1程度しかプラズマになりません。高温のプラズマは、磁場のカゴにより外部に逃げないように閉じ込められていますが、この磁場のカゴは、外部から供給された粒子がプラズマの中心部に入り込むことも妨げてしまうからです。そこで、効率の良い粒子供給法として、水素の氷を使った「固体水素ペレット入射法」が考案されました。これは、水素ガスをマイナス260度の極低温まで冷やして水素の氷(固体水素ペレット)にして、秒速1キロメートルぐらいの音速を超える超高速度でプラズマに入射する方法で、入射した固体水素ペレットはプラズマの中を溶けながら飛翔して、高温プラズマの中心部へ水素ガス粒子を供給することができます。
固体水素ペレット入射法では、固体水素ペレットが溶ける前に、プラズマ中心部へ粒子を供給することが重要となります。単純な計算では、数千万度もある高温プラズマからの熱により、マイナス260度の固体水素ペレットは100万分の1秒程度で溶けきってしまうため、プラズマ中を数ミリメートルしか進めず、ほとんどプラズマ中に入ることはできません。しかし実験では、固体水素ペレットの寿命はそれよりも1,000倍程度長く、高温プラズマ中を数十センチメートル程度も飛翔し、プラズマ中心部へ粒子を供給できることが観測されています。固体水素ペレットの寿命は何故そんなに長くなるのでしょうか?固体水素ペレットは、高温プラズマ中で表面が溶けると周囲にガスの層ができます。このガスの層がプラズマからの熱を吸収するため、固体水素ペレットが溶けるのが大幅に遅くなるのです。身近な例として、熱したフライパンの上に水滴を落としても、水はなかなか蒸発せずに、水玉になって長い間転げている現象が挙げられます。フライパンで熱せられた水の表面が蒸発して、フライパンと水玉の間に水蒸気(気体)の膜を作るために、熱が水玉に伝わりにくくなるのです。
さて、溶けた固体水素は周囲のプラズマよりもかなり密度が高いため、高温プラズマによってさらに加熱されると、プラズモイドと呼ばれる高密度のプラズマの塊になります。そして、高温プラズマ中に広がって薄まり、吸収されていくのですが、この吸収過程でプラズモイドが磁場の影響を受けて移動することを、LHDの実験で明らかにしました。プラズモイドは、最大で秒速5キロメートルものスピードで、磁場の弱い方向へ10センチメートル以上移動していることが観測され、粒子供給特性に大きな影響を与えていることがわかりました。このプラズモイドの移動方向をプラズマ中心部へ向かわせることができれば、粒子供給特性を向上させることができるので、現在、実験観測とシミュレーション計算を組み合わせた研究を進めています。
こうした研究を通じて、将来の核融合発電で必要とされている高効率燃料粒子供給法の確立を目指しています。

以上