HOME > 研究活動 > 研究レポート > 頭の融合で“夢の火”を -統合シミュレーション研究-

平成26年3月10日
頭の融合で“夢の火”を -統合シミュレーション研究-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)では、将来の核融合エネルギーの実現を目指した実験研究が進められていますが、最近のスーパーコンピュータの急速な進歩を受けて、LHD実験で観測される複雑な超高温プラズマの振る舞いをコンピュータ・シミュレーションにより再現させる統合シミュレーション研究にも取り組んでいます。今回は、将来の核融合発電所の設計においてプラズマ性能を正確に予測する上でも重要となる統合シミュレーション研究について紹介します。

 「頭の融合で“夢の火”(=核融合)を」。これは、核融合研究を牽引した先人が1981年の新聞インタビューで挙げられた言葉です。それから30年余、まさに多くの頭脳が結集して、核融合エネルギーの実現に向けた研究が大きな進展を遂げています。研究の進展につれて装置が巨大化し、強力な超伝導磁石により数千万度を超える超高温プラズマが閉じ込められるようになりました。このような超高温プラズマは、様々な物理過程が複雑に関連して振る舞い、その結果として、温度や密度をはじめとするプラズマの性質が実験的に観測されます。従来は、観測されたプラズマの性質が最も強く関係する物理過程に絞り、それに対応した理論計算と比較しながら研究を進めていましたが、超高温プラズマはいくつもの物理過程が複雑に関連しているため、様々な物理過程に対応する個々のコンピュータプログラムを統合して、コンピュータの中で超高温プラズマを再現するという統合シミュレーションの研究を、最近立ち上げました。これにより、超高温プラズマの複雑な振る舞いの基となる個々の物理過程に対する理解を深め、さらには、将来の核融合炉におけるプラズマの振る舞いを予測できるようにしようという研究構想です。
非常に大きな構想ですので、こつこつと積み上げているところですが、例えば、「どれくらいの加熱パワーを入れたらプラズマがどれくらいの温度になるのか」を正確に予測できたら、研究をさらに加速させることができます。しかし、残念ながら実際にはそうは簡単にはいきません。プラズマ粒子同士の衝突や、プラズマ中での異常な熱の伝わり、プラズマを閉じ込める磁場の変化、それによるプラズマ加熱効率の変化など、数多くの物理過程が複雑に絡み合ってプラズマの温度は決まっています。そこで、超高温プラズマの理論や物理モデル、大規模シミュレーションから得られる数値データベースなどを統合して、精度の高い予測を可能にしようと試みています。
一言で「統合する」と言っても簡単ではありません。それぞれの物理過程に対応したコンピュータプログラムから必要な情報を取り出して別のプログラムに正確に受け渡す、それも、人手を介さずに行う必要があるため、計算の中身である物理過程の相互理解とともに、実験データや計算データを取り込む技術も必要となります。そのため、よく理解した上で統合を行わないと、物理的に正しい計算を行うことができません。多くの研究者が持つ幅広い専門性と高度なスキルでこの統合作業を進めています。
これまでに組み上がったコンピュータプログラムの統合パッケージを使って、実験で計測された電子温度分布を再現する成功例を得ています。しかし、この時、イオン温度分布の方は再現できませんでした。イオンの熱の伝わり方に関するモデルの見直しを行っています。比較検証の例はまだ少数ですが、LHDの実験データを活用しながら、統合シミュレーションの研究を進めています。
今回は、プラズマの温度を解析対象として、コンピュータ上で「頭の融合」を行っている統合シミュレーションの研究について紹介しました。これは、超高温プラズマが見せる複雑な振る舞いのごくごく一部にしかすぎません。統合をさらに推し進めるとともに、シミュレーション結果がLHDプラズマを再現できているかどうか、という検証研究を積み重ねて、LHDプラズマの高性能化や将来の核融合発電プラズマの性能予測に貢献することを目指しています。

 

以上