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平成26年3月24日
不純物をピンポイントで注入する -トレーサー内蔵固体ペレット-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 将来の核融合発電を実現するためには、磁場に閉じ込められたプラズマを高い温度に維持する必要があります。ところが、高温プラズマに混入する不純物はプラズマのエネルギーを光として放出してしまうため、不純物の量が増えるとプラズマの温度が下がってしまいます。そのため、プラズマに混入する不純物の量を適切に制御することは重要な課題で、高温プラズマ中における不純物の振る舞いが様々な方法で調べられています。その中の1つに、外部から不純物をプラズマに注入することにより、高温プラズマ中の不純物の振る舞いを調べる方法があります。今回は、大型ヘリカル装置(LHD)で開発された「トレーサー内蔵固体ペレット」というピンポイントで不純物を注入することのできるユニークな方法を使った不純物研究について紹介します。

 磁力線のカゴに閉じ込められた高温プラズマは、容器の壁には直接触れていませんが、壁の材料である鉄や壁に付着していた炭素などの「不純物」が少しずつプラズマに混入してきます。プラズマに入り込んだ不純物は、プラズマから吸収したエネルギーの一部を光として放出して、プラズマを冷やしてしまうため、高温プラズマ中における不純物の振る舞いが精力的に調べられています。ところが、鉄などの普段からプラズマに混ざっているような不純物の振る舞いは、既にある程度の量が存在しているために、時として、その微妙な変化が分かりにくい場合があります。それに対して、プラズマには絶対に入ってこないような不純物をあえて注入すると、微妙な変化まで精度高く、その振る舞いを調べることができます。この外部から意図的にプラズマ中へ注入する不純物をトレーサー不純物と呼びます。追跡(トレース)可能な不純物という意味です。
固体のトレーサー不純物は、1ミリメートル程度の小さな固まり(ペレットと言います)にして、細い管を使って、吹き矢の原理でプラズマに高速で注入します。不純物はプラズマ内部に侵入するにつれて、溶けてプラズマに吸収されます。この時、トレーサー不純物の一部は、磁力線のカゴの外側に存在しているプラズマにも吸収されてしまうため、磁力線のカゴの内側に閉じ込められている高温プラズマにどれだけの量のトレーサー不純物が供給できたのか、正確には分からないという問題がありました。これを克服するためにLHDで開発したのが「トレーサー内蔵固体ペレット」です。
トレーサー内蔵固体ペレットとは、中空のプラスチック球の内部にトレーサー不純物を内蔵させたもので、二層構造になっています。この構造により、磁力線のカゴの外側のプラズマを通過している間は、外層部のプラスチックの部分だけが溶けるようにすることができるため、カゴの内側の高温プラズマにピンポイントでトレーサー不純物を注入することができます。また、プラスチック球の中に封入するトレーサー不純物の量を正確に決められるので、注入したプラズマ中での振る舞いを精度高く調べることができます。さらに、外層部のプラスチックの厚みを調節して溶けるまでの侵入深さを変えることにより、詳しく調べたい場所にトレーサー不純物を直接注入することもできます。
このようなトレーサー内蔵固体ペレットの特長を活かして、年輪のように入れ子状になっている磁力線のカゴの一部が乱れてできた節のような場所における不純物の振る舞いを調べました。この磁力線の節の存在そのものは、通常、プラズマの閉じ込めに悪い影響を及ぼします。この節のような場所の中にピンポイントでトレーサー不純物を注入して、コンピュータ断層撮影の技術を用いて、その振る舞いを画像として解析したところ、トレーサー不純物が比較的長い時間この節のような場所に留まっていることが明らかになりました。
今後も、このLHDで開発したトレーサー内蔵固体ペレットの利点を最大限に活かした研究を進めて、プラズマに混入する不純物の振る舞いを明らかにし、その制御法を確立することを目指します。

トレーサー内蔵固体ペレットは、中空のプラスチック球の内部にトレーサー不純物(直径0.2ミリメートル以下の微小球)を複数個内蔵させた二層構造をしています。全体の直径は、実験の内容に応じて、0.4ミリメートルから0.9ミリメートルの間で選ぶことができます。

以上