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平成26年4月7日
2億度を超える電子温度を測る -トムソン散乱計測器-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマでは、2億度を超える電子温度が観測されています。このような高い温度は普通の温度計では測れないので、強力なレーザー光線を利用して測定します。今回は、2億度を超える電子温度を計測するためにLHDで改良が進められている、レーザー光線を用いたトムソン散乱計測器について報告します。

 レーザー光線をプラズマに入射すると、プラズマ中の電子に反射・散乱されます。この時、電子に散乱された光は、電子の動き回っている速度に対応して波長が変わるため、散乱光の波長の変化を測定すると、電子の速度の分布、すなわち温度を知ることができます。このレーザー光線を用いた温度計をトムソン散乱計測器といいますが、この原理自体は、ネズミ捕りと呼ばれている自動車の速度取り締まりにも使われています(この場合は電波を用いています)。トムソン散乱計測器は、1960年代後半から70年代初頭にかけて実用化され、現在、世界中の研究所で使われています。LHDでは、同時にプラズマ中の144点の場所の温度を、1秒間に50回測定できるシステムを開発し、世界的にもトップクラスの性能を有しています。
LHDのトムソン散乱計測器は、プラズマへ入射したレーザー光線のうち、13度斜め後ろに散乱してくる光を観測して、0~1億度の電子温度が測定できるように設計しました。この計測器を設計した20年前は、1億度の温度が測定できれば十分であると考えていたのですが、LHDの実験はこの予想を大きく上回り、現在は2億度を超える電子温度が達成されています。
そこで、トムソン散乱計測器の基本構造を抜本的に改良し、レーザー光線を逆の方向からも入射して、斜め後ろ13度方向に散乱してくる光に加え、斜め前13度方向に散乱してくる光も観測できるようにしました。斜め前に散乱してくる光を観測すると、測定できる温度範囲は2,000万度~10億度になります。2,000万度以下の温度の測定は難しくなりますが、前方への散乱光を観測する方が、1億度を超える温度の測定には格段に有利になります。そして、後ろに散乱してくる光と前に散乱してくる光の測定を併せると、0~10億度の温度が測定できることになります。
LHDのトムソン散乱計測器を斜め前への散乱光も観測できるようにするためには、レーザー装置からプラズマまでのレーザー光線の伝送距離を50mから80mに延ばす必要がありました。それでも目標地点でのレーザー光線の位置精度を1mm以下に保たなければならないため、条件が1.6倍厳しくなりましたが、レーザー光線の伝送方法や調整方法を工夫して、80mの伝送を可能としました。その結果、斜め前方に散乱する光の信号を観測することに成功し、3000万度程度のプラズマに対して、これまでの後方への散乱光の測定と同様に、誤差10%かそれ以下の精度で電子温度の測定が行えることを確認しました。まだ改良が必要な箇所が残されてはいますが、LHDプラズマの電子温度が3億度、4億度、と上がっていった時にも正しく測定できる見通しが得られました。

以上