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平成26年4月21日
負の水素イオンを作る -負イオン型中性粒子入射加熱装置-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)では、磁場のカゴに閉じ込められたプラズマを加熱する方法の1つに、中性粒子入射加熱装置(NBI)という高いエネルギーに加速された水素原子ビームをプラズマに入射する方法を用いています。NBIはLHDの主加熱装置で、これにより、昨年度の実験では9,400万度のイオン温度を達成しました。LHDのNBI装置では、水素ビームを発生させるために世界最高性能の負イオン源を使っています。今回は、このNBI装置のさらなる性能向上を目指して進められている水素負イオン源の研究について紹介します。

 NBIは、非常に高速に加速されて高いエネルギーを持った水素原子のビームをプラズマ内に入射し、そのビームのエネルギーをプラズマ中のイオンや電子に与えることにより、プラズマの温度を上げる装置です。西部劇で、ガンマンが木に向かって拳銃を撃つと、弾丸が撃ち込まれた木の周りから煙が出てくるシーンを見かけますが、これは高速の弾丸の持つエネルギーが入射された木に与えられて、撃ち込まれた木の周りの温度が上がったためで、NBIによるプラズマ加熱も同様に考えることができます。
従来のNBIでは、正イオンを用いて数万ボルトの電圧に加速した水素ビームを入射していましたが、LHDのプラズマはドーナツの直径が8m程度と大きいことから、プラズマ中心部まで有効に水素ビームを打ち込むためには、10万ボルト以上の電圧で加速した水素ビームを入射させる必要があります。そのためには、水素の正イオンに替わって負イオンを高電圧に加速しなければならず、水素負イオン源の開発が進められました。
原子から負(マイナス)の電気を持った電子が取れると、正(プラス)の電気を持った正イオンになりますが、逆に、原子に電子がくっつくと負の電気を持った負イオンになります。ところが、真空中で負イオンを生成するのは難しく、LHDの建設当時の1990年代には十分な量の水素負イオンを生成する負イオン源はまだ実用化されていませんでした。研究所では、NBI用の水素負イオン源の開発を精力的に進めて実用化し、世界で初めて、19万ボルトの電圧で加速した負イオンビームを用いたNBIによるプラズマ加熱に成功しました。これにより現在は、LHDのプラズマ性能を毎年上げ続けています。
この水素負イオン源の性能をさらに高めようと研究を進めたところ、水素負イオン源の内部に、「水素正イオンと水素負イオンだけのプラズマ」を生成するというとても興味深い発見がありました。通常のプラズマは、電子と正イオンから構成されていますが、負イオンの密度の大幅な増加に成功した結果、同じ負の電気を持った電子がほとんど存在しないプラズマができたのです。プラズマの性質は正イオンよりもずっと軽い電子に依存するところが大きいのですが、電子が正イオンと同じ重さの負イオンに置き換わっているので、これまでとは異なる現象が見られ、現在、その解明を進めています。
今後は、この電子の無い正負のイオンだけによるプラズマの特性を調べて、NBI用水素負イオン源の性能をさらに向上させる計画です。

以上