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平成26年6月2日
プラズマを壊してみよう -高い圧力のプラズマを安定に閉じ込める-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)では、磁場の力で高温・高密度の圧力の高いプラズマを閉じ込めています。磁場は電磁石に電流を流すことによって作られるので、このような磁場閉じ込め方式では、電磁石の規模や電気代などの経済性の面から、できるだけ弱い磁場で高い圧力のプラズマを閉じ込めることが、将来の核融合炉の実現に向けて重要となります。しかしながらプラズマの圧力が上昇すると、時としてプラズマが不安定になり、プラズマの閉じ込め性能が低下してしまいます。LHDでは、そうした不安定性を引き起こす条件を調べて、圧力の高いプラズマを安定に閉じ込める研究を進めていますが、その際、プラズマが壊れるほどの不安定性を意図的に起こすというユニークな手法も用いています。今回は、このLHDで行われている、プラズマを「壊す」ことによりプラズマを安定に閉じ込める手法を確立する研究について紹介します。

 LHDのような磁場閉じ込め方式では、幾重にも入れ子状になってできている磁場のカゴにより、高温・高密度のプラズマを閉じ込めています。ところが、温度や密度が上がってプラズマの圧力が高くなると、プラズマ中に発生した揺らぎが成長して、磁場のカゴで抑えきれなくなり、プラズマの閉じ込め性能が低下する場合があります。磁場のカゴは、プラズマの周囲に配置した電磁石に流す電流の組み合わせにより形が決まりますが、揺らぎが成長するか否かは、この磁場のカゴの形が大きく影響します。
LHDでは、これまでの研究により、比較的揺らぎが成長しにくいように磁場のカゴの形を最適化して、核融合炉に必要とされる高い圧力のプラズマを閉じ込めることに成功しました。また、仮に揺らぎが発生しても、プラズマの温度が高くなれば、揺らぎの成長が止まる現象も発見しました。
では一方で、揺らぎが成長しやすい磁場のカゴでは、プラズマはどうなってしまうのでしょうか。病気にならないと治療法が見つからないのと同様に、揺らぎが成長しやすい「不安定な」磁場のカゴの時に現れるプラズマの性質を調べることは、将来の核融合炉における最適な磁場のカゴを設計する上で重要なことです。LHDでは、複数の電磁石を組み合わせて、様々な形の磁場のカゴを作ることが可能ですが、プラズマ生成中に特定の電磁石に流す電流を少しずつ変えることにより、磁場のカゴの形を徐々に「不安定な」形に変化させ、その際にプラズマがどのように振る舞うのかを調べました。すると、変化の途中からプラズマ中に揺らぎが発生し、それが大きく成長するようになると、プラズマの圧力の分布が変形してきました。ところがこの時は、プラズマの閉じ込め性能はそれほど変わらず、揺らぎはプラズマ中の電子と一緒に回転していました。そして磁場のカゴがさらに不安定な形になると、揺らぎの回転が停止してしまい、それと同時に揺らぎが大きく成長して、今度はプラズマ中心の圧力が6割も失われてしまいました。この事は、たとえ「不安定な」磁場のカゴで揺らぎが成長したとしても、それが回転していれば、それほど大きく成長しないことを示しています。つまり、何らかの方法で揺らぎを回転させれば、プラズマを壊さずに維持することができる可能性が示されました。このような現象は他の装置でも同様に観測されており、揺らぎを回転させる事がプラズマを安定に維持する一つの方法であることがわかりました。

ドーナツ状の磁場のカゴに閉じ込められたプラズマの模式図

プラズマは、磁力線がねじれた形の磁場のカゴに閉じ込められていますが、揺らぎが一定以上成長すると、場合によっては、磁場のカゴによる圧力では抑えきれなくなって、プラズマのエネルギーが失われます。

以上