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平成26年6月30日
ビッグデータに挑む ―最先端の国産IT技術が支える核融合実験―
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)では、平成25年度に、実験1回あたり891.6 GB(ギガバイト)の計測データを収集して、同分野におけるデータ収集量の世界記録を更新しました。この値は、2020年の実験開始に向けて南フランスで建設が進められている国際熱核融合実験炉(ITER)で予測される実験1回あたりのデータ量約1 TB(テラバイト、1 TBは1,000 GBで、映画ビデオに換算すると約230タイトル、新聞紙にして積むと約2,000 mの高さに相当する情報量)にせまる記録です。現在、世界で運転されている核融合実験装置の中で、データ収集に関してLHDが先頭を切っているのがよくわかります。LHD実験から生まれる貴重な「ビッグデータ」の保管には、最先端の国産IT技術が使われていますが、今回は、LHDのデータ収集技術の発展がIT業界の開発の方向性に大きな影響を及ぼした事例を紹介します。

 各種データを保存する装置には、磁気ディスク、磁気テープ、USBメモリーのような半導体フラッシュメモリー、それにDVDやブルーレイ・ディスク等の光ディスクがあります。その中で貴重なデータの長期保存には、高い信頼性と長寿命を兼ね備えた光ディスク、特にブルーレイ・ディスク(BD)が最も適するといわれており、LHD実験でもデータの長期保管用にBDのライブラリ装置を使っています。ライブラリ装置とは、内部にあるロボットアームが約1,000個ある棚(スロット)に入った光ディスクを選んで取り出し、読出し/書込み用ドライブに搬送する自動装置のことです。機能や動きが似ていることから、年配の方ならよくご存知の「ジュークボックス」とも呼ばれます。この光ディスクの技術は、日本メーカーが世界をリードする分野で、ソニー・松下陣営の「Blu-ray Disc (BD)」と東芝「HD-DVD」が覇を競って、BDが勝ち残ったのをご記憶されている方もおられることかと思います。
この長期保存に適したBDですが、磁気ディスクや磁気テープと比べると、1枚あたりの記憶容量が少なく、読出し/書込み速度も遅いという欠点があります。つい2年程前には、BDドライブを8台同時に使っても、LHD実験1日分のデータを24時間で書き終わらない、という事態も生じました。最近ニュースや新聞でよく耳にする「ビッグデータ」の長期保存とアーカイブ利用には、こうした面の性能向上が欠かせません。そこで国内BDメーカー2社は、BDメディア12枚を1つのカートリッジに収めて、容量・速度共に性能を一桁高めた製品をそれぞれ独自に、2012~13年に発表しました。
それに対して、当時すでにBDのビッグユーザであったLHDは、メーカー独自仕様が競合するのではなく、BD規格がより広く普及して長期的な展開が期待できるような標準化が望ましいと、直接メーカーに働きかけるとともに、業界専門誌への論文投稿などを通して国内光ディスク業界全体にも呼びかけました。その結果、国内2社は次世代BDの統一規格を出すことに合意し、それを2014年3月に発表しました。
核融合研究は「ビッグ・フィジックス」と呼ばれる大型研究プロジェクトであり、多くの分野のさまざまな最先端技術が応用されていますが、今回のように、IT業界の将来展開にも大きな影響を及ぼすことがあります。核融合の研究開発から生じた技術の他分野への波及効果の1つといえるでしょう。

以上