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平成26年9月22日
ぶつかり軌道を変える -荷電粒子の衝突が引き起こす粒子や熱の輸送-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
  大型ヘリカル装置(LHD)をはじめとする磁場閉じ込め核融合プラズマ装置では、ドーナツ形状の磁力線のカゴの中に高温高密度のプラズマを閉じ込めています。ドーナツ状のプラズマの温度と密度は、通常、中心部が高く、端(つまりドーナツの表面)へ向かって低くなっています。このとき、プラズマ中の粒子や熱は中心部から端へ向かって移動していきますが、こうした粒子や熱が移動する現象を「輸送」と言います。輸送を引き起こす主要な原因の1つに、プラズマ中のイオンや電子などの粒子同士の衝突の効果が挙げられます。これらの粒子は電気を持った荷電粒子なため、磁力線のカゴの中で複雑な動きをすることから、現象の理解には計算機シミュレーションが欠かせません。今回は、荷電粒子同士の衝突によって起こる輸送の研究を紹介します。

 プラズマ中のイオンおよび電子は、それぞれ正および負の電気を持った荷電粒子です。荷電粒子同士が近づくと、電気的に反発したり引き合ったりして、それぞれの運動方向の進路が変わります。これが荷電粒子同士の衝突で、必ずしも正面衝突するわけではありません。核融合プラズマでは、多数のイオンと電子が磁力線のカゴの中を飛び回りながら、お互いにこのような衝突を繰り返してランダムに運動の方向(軌道)を変えながら、全体としては電気的にほぼ中性となるように分布しています。そして、長時間にわたって定常にプラズマを閉じ込めるためには、荷電粒子同士の衝突によって起こる輸送について、よく理解しておく必要があります。
衝突によって起こる輸送の性質は、磁力線に沿って行ったり来たりするような運動をしている荷電粒子により特徴づけられます。ドーナツ状の磁力線に沿って磁場の強さを測ると、磁場を発生するコイル形状の影響を受けて、強くなったり弱くなったりしています。この磁力線に沿った磁場強度の変化が、磁力線に沿って行ったり来たりする荷電粒子の運動を引き起こします。そして、多数の荷電粒子が磁力線に沿って行ったり来たりしながら、何回も衝突を繰り返すことにより、少しずつ運動の方向を変えて軌道が広がり、その結果として、粒子や熱が密度と温度の低い方へ(つまり端へ向かって)移動していきます。
プラズマには非常に多くのイオンや電子などの荷電粒子が含まれていて、それらは様々な軌道を描きながら磁力線のカゴの中を飛び回っています。輸送に影響する荷電粒子の軌道は複雑で、また、磁力線のカゴの形状はもちろんのこと、温度や密度によっても変化するので、実験結果の分析や予測のために、輸送の大きさの理論的評価にはスーパーコンピュータを使った大規模な計算機シミュレーションが欠かせません。近年のスーパーコンピュータの進歩により、磁力線のカゴがより複雑な形状の場合でも、精度の良いシミュレーションが行えるようになってきました。現在、LHDプラズマの端の部分で観測されるような、磁力線のカゴがランダムに乱れた状態における極めて複雑な粒子や熱の輸送を研究しています。こうした研究により、プラズマの定常状態における粒子と熱の閉じ込めについてさらに理解を進め、核融合プラズマの高性能化を目指します。

以上