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平成26年12月15日
対称性をほんの少し壊してプラズマをうまく閉じ込める
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 将来の核融合エネルギーの実現を目指して、磁場閉じ込め装置では、高温度・高圧力のプラズマを磁場の「カゴ」に閉じ込める研究を進めていますが、プラズマをうまく閉じ込めるためには、この磁場のカゴの形状の「対称性」が重要な役割を果たします。対称性が高いとプラズマの閉じ込め性能も高いのですが、なんらかの原因で閉じ込め状態が変化したとき、プラズマが突発的に吹き出して容器を損傷させるおそれもあります。そのため、あらかじめ対称性の一部を少しだけ壊して、プラズマの閉じ込め状態を安定にさせる研究が進められています。今回は、大型ヘリカル装置(LHD)で行われている、磁場の対称性の制御によるプラズマ閉じ込め手法の高度化に関する研究について紹介します。

 対称性とはなんでしょうか? 折り紙をモデルに対称性とは何かを考えてみましょう。正方形の折り紙は、辺の真ん中で折りたたむと四つの角が二つずつ重なり合います。対角線で折り込めば、残りの角が重なります。正方形はこのように二つの折り線(軸)に対して同じ形をしているので「線対称」であるといいます。また、正方形の真ん中に面と垂直に軸を通して、その周りに90度回すと同じ形になります。つまり「回転対称」でもあります。核融合プラズマの磁場閉じ込め装置では、プラズマを閉じ込める磁場の形状にこのような対称性を持つことが大事です。トカマク型と呼ばれる閉じ込め装置はドーナツの形をした磁場の形状で、ドーナツの真ん中を軸にぐるぐる回しても形が変わりません。これがトカマク型装置の大きな特長になっています。LHDのプラズマ閉じ込め磁場の形状はねじれたドーナツの形をしており、軸の周りをねじりながら回した時に形が変わらないので、ねじり対称、つまり「ヘリカル対称性」があるといいます。このような対称性の高い形状を持つ磁場閉じ込め装置は、外に逃げようとするプラズマに対して弱いところがないため、プラズマを上手に閉じ込めることができます。
ところが最近、こんなに素晴らしい対称性をわざわざ崩そうとする実験が注目を集めています。対称性が良くて、プラズマをうまく閉じ込めすぎると、閉じ込め状態が少し崩れてプラズマが逃げ出す時に、突発的に大きなエネルギーとなって容器にぶつかってしまい、場合によっては容器を損傷させてしまうことがわかってきました。火山のマグマだまりがしっかりと閉じ込められていると、噴火の際のエネルギーが大きくなるのに例えられるかもしれません。そこで、プラズマを閉じ込める磁場の対称性をちょっとだけ破り、あらかじめ決められた場所へ少しずつプラズマが逃げ出すようにすると、閉じ込め状態が崩れた際に突発的に逃げ出すプラズマの量が少なくなって、容器でうまく受け止めることができるようになります。
それでは対称性をどうやって壊すのでしょうか? 外部から対称ではない磁場を加えればよいのですが、プラズマは外部の磁場の影響を受けて予想外の動きをして逆らうので、プラズマ中の磁場がどうなるのかは予測が難しいのです。対称性を壊しすぎてしまうと元も子もないので、どれだけ小さい外部の磁場で十分なのかを知る必要があります。これは大変重要かつ難しい問題なため、この問題だけを取り扱った専門の会議が毎年開かれているほどです。LHDでは、プラズマ内部の様子を調べることができる新しいタイプの計測器を使って、外部磁場によるプラズマの変形を研究する準備を進めています。この計測器はプラズマの形を対称な二つの向きから撮影します。プラズマに対称性があれば二つの画像は一致しますが、対称性が破れていると異なった画像が撮影されます。二つの画像の差から、対称性の破れ具合を推定するわけです。計測器のテストなど、トカマク型装置も含めた日米韓のメンバーによる国際的な実験を計画しており、将来の核融合炉につながるプラズマ制御手法の高度化へ向けて、この難問に挑んでいます。

以上