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平成27年1月19日
定常プラズマ研究の進展 −高性能プラズマを長時間保持する-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)は、プラズマを閉じ込める磁場を超伝導コイルのみにより生成できるため、定常的に高温プラズマを保持することが可能です。将来の核融合発電所では定常運転が求められていることから、LHDではその特長を生かして、定常プラズマ研究を進めています。今回は、電波を用いた加熱機器の定常・大電力化により最近大きく進展している、プラズマの長時間保持に関する研究について紹介します。

 LHDは、ドーナツ型のプラズマの外部に配置したコイルのみにより閉じ込め磁場を発生させるヘリカル方式ですが、他に、外部磁場に加えドーナツ型のプラズマ内にも電流を流すことにより閉じ込め磁場を完全なものにするトカマク方式があります。トカマク方式は、短時間のプラズマ生成ではLHDより高い性能が得られていますが、プラズマに大電流を流し続けることが課題となっているため、高性能な定常プラズマを長時間保持する研究が、現在建設中のJT60-SA (日本原子力研究開発機構)の目標の1つになっています。 そのため、定常プラズマの長時間保持とそれに関連する研究は、LHDの特長を発揮する重要実験課題の一つであるとともに、定常運転が不可欠な将来の核融合発電所の設計を進める上で、大変重要な研究テーマになっています。
現在LHDでは、定常的にプラズマを保持するために、イオンサイクロトロン加熱と呼ばれる加熱方式を主に用いています。プラズマを構成する電子とイオンは磁力線に巻きつくような回転運動をしていますが、この加熱方法は、イオンの回転周期と同期する周波数の電波(電磁波)により、共鳴的にイオンの回転速度を上げて加熱するというものです。LHDでは、FMラジオの周波数に近い約40MHzの周波数を使用しています。
昨年度の実験では、プラズマに電波を放射する大電力定常加熱用アンテナを新たに2本増設して、合計6本としました。また、加熱電力の制御方法や燃料ガスの注入方法を改良することにより、大きな加熱電力を定常的に入射することが可能となり、これまでより高い密度のプラズマを長時間安定に維持することができました。その結果、加熱電力約1メガワットのときには1cc当たり12兆個の密度で2,300 万度のプラズマを約48分間、2メガワット以上では1cc当たり20兆個以上の密度で1,700万度のプラズマを約6分間にわたって保持することに成功しました。なお、48分放電のときの加熱電力と加熱入射時間の積で表わされる加熱入力エネルギーは約3.4ギガジュールで、トカマク方式でこれまで得られた最大値の約1.1ギガジュールを大幅に上回った世界記録となっています。
高性能な定常プラズマの実現により、定常プラズマが真空容器壁に及ぼす影響についての研究も進展しています。プラズマと容器壁との相互作用により、容器壁のあるところは削れ、あるところはそれらが積もるということが起こりますが、定常プラズマ放電を行うと、そうした現象が顕著に見られるようになります。積もった堆積層は、燃料ガスを吸い込んだり吐き出したりしてプラズマの運転に影響を与えます。また、堆積層が剥がれると、その一部はプラズマ内に入ってきて、場合によってはプラズマを壊すことにもなります。これによるプラズマの停止の問題を解決するため、種々の方策が考えられており、今後LHDで逐次試して行く予定です。
このような数十分に及ぶ高性能定常プラズマの研究は、トカマク方式をはじめとする他の装置ではまだ実現できていません。そのため、現在LHDで得られている知見は、将来の核融合発電所を見据えた研究を世界的に牽引するもので、今後、さらに発展させていきます。

以上