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平成27年4月20日
「水の窓」領域の発光スペクトルを観測する
-生きた細胞を見る新型顕微鏡開発に向けた共同研究-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
  

 生きた細胞の観察には一般に光学顕微鏡が使われます。ところが、光学顕微鏡より数十倍高い解像度を持つ「軟X線顕微鏡」が生命科学の分野で注目を浴びています。X線と聞くとレントゲン検査を思い起こす人が多いでしょう。軟X線とは、レントゲン検査で使うX線よりも波長が長く、紫外線に近い電磁波のことを言います。そして軟X線は波長が変わると、元素によって透過しやすさが変わることが知られています。例えば、酸素に対しては波長が2.3ナノメートル(ナノは10億分の1)以上で透過しやすくなり、炭素に対しては4.4ナノメートル以上で透過しやすくなります。つまり波長が2.3から4.4 ナノメートルの間では、水分子を構成する酸素にはほとんど吸収されない反面、細胞を構成する炭素に強く吸収されることになります。この性質を利用すると、培養液に入った生きた細胞組織の内部構造を高いコントラストで観察できるわけです。このことから、この波長領域を「水の窓」と呼び、「水の窓」領域の軟X線を光源とした顕微鏡が精力的に開発されています。例えば、宇都宮大学では、ビスマスやジルコニウムといった原子番号の高い元素にレーザーを当て、プラズマ化し、「水の窓」領域の軟X線を発光させることを提案しています。
光源を高輝度・高効率化するためには、プラズマからの発光スペクトルを精度良く調べる必要があります。そこで宇都宮大学と核融合科学研究所をはじめとする共同研究グループでは、候補材料となる元素を封入したペレット(小球)を核融合研究用の大型ヘリカル装置(LHD)の高温プラズマに入射し、「水の窓」領域の軟X線発光スペクトルを観測しました。その結果、プラズマ中のジルコニウムイオンからの波長が2.8 ナノメートルの強い発光スペクトルを初めて観測しました。これは明らかに「水の窓」領域の軟X線です。今回LHDで得られたデータは、今後レーザーを用いた光源開発や顕微鏡システムの設計に生かされます。

以上