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平成27年6月1日
プラズマの温度と密度の長時間予測が可能に
-バタフライ効果に注目した計算機シミュレーション研究-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合科学研究所では、大型ヘリカル装置(LHD)を用いて、一億度にもおよぶ高温のプラズマを磁場で閉じ込める研究を行っています。このような高温プラズマの性質はとても複雑です。例えば、密度や温度の時間変化を詳しく見ると、それらの量は不規則に変動しています。このような不規則な揺らぎは、プラズマ中に乱れを発生させる原因の一つにもなります。そして、乱れはプラズマの性能に重要な影響を及ぼします。今回は、揺らぎに注目をしたプラズマの温度と密度の時間変動についての計算機シミュレーション研究を紹介します。
計算機シミュレーションでは、ある時刻の状態を決めて、その後の時間変化を追跡します。磁場閉じ込めプラズマの温度と密度のシミュレーションでは、温度や密度の最初の値を設定しますが、外部からプラズマを温めていることや燃料となる粒子を注入していることを取り入れて計算を進めます。このシミュレーションで、温度や密度の不規則な時間変動や、その揺らぎによって引き起こされるプラズマの乱れを再現することができます。また、長時間にわたって計算を行えば、長時間後のプラズマの温度や密度を知ることができます。しかし、一点、重要な問題があります。それは、最初の状態が違うだけで、長時間後の結果が大きく異なる場合があるということです。
結果が初めの状態に敏感であるという問題は、高温プラズマの流体現象だけなく、天気の変化にも関わっていて、「バタフライ効果」と呼ばれています。蝶のはばたきによって生じる非常に小さな空気の乱れが、ずっと後の時刻の天気に影響を与えるという比喩から、そう呼ばれています。明日の天気予報は良く当たりますが、1週間後の予報が当たりにくい原因の一つでもあります。バタフライ効果は、不規則な時間変化を示す揺らぎが原因で、計算の精度をどんなに上げても無くす事はできません。このため、わずかに異なる初期状態を多く作って、それぞれに対して時間変化を計算します。同じような状態が得られれば、信頼性が高い予報と考えられます。
プラズマの温度や密度のシミュレーションでも、異なるプラズマの初期状態をいくつも設定して計算を行い、得られた多くの結果を比較する必要があります。シミュレーションとデータ解析の手法を開発し、最も確からしい予測に基づいて、プラズマの時間変化や乱れの性質を研究できるようになりました。また、外部からの加熱や燃料補給によって、プラズマの状態がどのように変化するかを調べ、高性能プラズマを達成するための方法を検討することもできるようになりました。
核融合エネルギー実現のためには、プラズマを長時間閉じ込めることが必要です。そのため、プラズマの長時間予測は重要な課題です。今後は、長時間予測の信頼度の向上と、高性能プラズマの達成を目指します。

以上