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平成28年1月6日
液体金属を使って高温に耐えられる壁を作る!
-スズシャワーダイバータの開発-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合炉では、強力な磁場を使って超高温のプラズマを宙に浮かし、真空容器に接触するのを防ぎます。プラズマが真空容器に接触すると超高温のプラズマが瞬時に冷めてしまうからです。ところが、どの型の装置でも、局所的にプラズマが真空容器に接触する場所があります。その部分を「ダイバータ」と呼んでいます。将来の核融合炉では、水素燃料が核融合反応を起こしてヘリウムになります。このヘリウムもプラズマになるのですが、最後は磁力線を伝ってダイバータに当たり、真空容器の外に排気されます。ダイバータは、灰であるヘリウムガスを排気するという大事な役割を果たします。ところが、ダイバータにプラズマの粒子が当たると、その部分は高温になります。核融合炉になると、現在の大型ヘリカル装置(LHD)の数十倍に相当する熱がダイバータで発生すると予想され、高温に耐えられる材料開発が急務となっています。

 LHDではダイバータに、黒鉛(炭素の鉱物)のタイルを水冷パイプ付きの銅板の上に貼り付けた構造が使われています。黒鉛は高温に耐えることができ、熱伝導が良く除熱性能には優れているのですが、プラズマ粒子が当たると表面が薄く削られてしまうのが欠点です。削られた炭素は不純物となってプラズマの温度を下げてしまいます。この問題を解決するため、液体金属をダイバータに使うというアイデアが、近年注目を浴びています。液体金属とは、水銀のように溶けている金属のことです。元々が液体なので、高温になっても溶けたり、削られたりという心配がありません。

 それでは液体金属には何を使えば良いのでしょうか?水銀は毒性が強いので使えません。リチウムは180℃、ハンダの主成分でもあるスズは230℃、鉛は330℃で溶けます。これらは資源量も豊富で、比較的安価です。世界的にはリチウムを使った研究が多いのですが、私たちはスズを利用する研究を開始しました。ダイバータに利用する液体金属は高温になるため蒸気圧が低い方が望ましいのですが、スズはリチウムに比べて蒸気圧が低いことに注目をしたのです。そして、溶かしたスズをシャワーのようにして壁を作り、ダイバータとして利用することを検討しています。この全く新しいアイデアである「スズシャワーダイバータ」では、直径1 cmくらいの蛇口をたくさん横に並べて、溶かしたスズを、毎秒数メートル(水道水と同じくらいの速さ)で、1~2メートルの高さから落とします。ここで、スズを安定に落下させなければなりませんが、そのまま落とすと周りに飛び散ってしまうので、チェーンを使って落下させます。雨どいなどで、チェーンを伝わせて雨水を落とす仕組みを見かけますが、あの仕組みを液体金属に応用しようというわけです。安定な壁を生成できれば、次に、その壁の耐熱性能や除熱性能について、計算と比較しながら実験で詳しく調べます。このように新しいダイバータの実現に向けて、スズシャワーで作った壁の構築と様々な実証実験を、今後数年かけて行う計画です。どうぞご期待ください。

以上