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平成28年3月9日
LHDで高温プラズマ中の新しい突発現象を発見
-大振幅波の突発的発生とその機構の解明-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)で、プラズマの新しい「突発」現象が発見されました。文字通り、高温のプラズマ中に「突」然、大きな振幅を持つ波が「発」生する現象です。さらに、この現象のメカニズムを解明することにも成功しました。今回は、このプラズマの突発現象についての研究を紹介します。
核融合発電を実現するためには、高温・高密度のプラズマを安定して閉じ込めておく必要があります。ところが、プラズマはたくさんのイオンと電子の集合体ですので、水分子の集合体である水のような流体と同じように、プラズマの中には色々な波が発生します。発生する波によっては、プラズマの熱やプラズマ粒子を外に逃がして、温度や密度を下げてしまうことがあります。そのため、プラズマの中でどのような条件でどのような波が発生するかを理解するための研究を進めています。
今回、LHDにおける実験で、プラズマ中に発生する波の性質を調べるために、音波の一つである「測地線音波」を観測していたところ、通常は発生しないと考えられていた波が、突然大きな振幅を伴って発生するという新しい現象を発見しました。実験データを詳しく調べると、もともと観測していた波の周波数がある値になると、突然、その半分の周波数の波が大きくなっていることが分かりました。つまり、もともと在った波がきっかけとなり、そのきっかけがあるレベルを超えると、発生しないと考えられていた波が大振幅の波として突発的に発生していたわけです。
さて、ここで、波の発生メカニズムを考えるため、谷底や山頂でボールを転がした場合を思い浮かべてください。谷底でボールを転がしても、ボールは底の付近を行ったり来たりするだけです。ボールの位置の変化を波の振幅だと考えると、これは、波の振幅が小さいままで安定な状態といえます。一方、山頂にあるボールは、少し動かしただけで、山頂から転がり落ちてどんどん離れていきます。これは波の振幅がどんどん大きくなる不安定な状態です。では、山頂部分が凹んでいたらどうなるでしょう? ボールが凹みの部分に居る時は安定ですが、何らかのきっかけで凹みから出ると、ボールは一気に転がり落ちていきます。このように、外からのきっかけがあるレベルを超えると、突然、不安定になることを「亜臨界不安定性」と呼んでいます。これまで、理論的には、亜臨界不安定性は突発現象を引き起こす候補として指摘されていました。
そこで、九州大学との共同研究により、今回発見された現象は亜臨界不安定性によるものだとして新しい理論モデルを作り、それを基に計算機シミュレーションを行ったところ、実験結果をうまく再現することができました。このように、これまで知られていなかった突発的な波の発生現象をLHDで発見し、そのメカニズムを解明することに成功しました。そして、理論上のものであった亜臨界不安定性が、実際に高温プラズマ中に存在することを示すことができました。現在、この突発現象が高温・高密度プラズマの閉じ込めにどのような影響をもたらすのか調べています。
今回の成果は、広範囲な研究への寄与が期待されます。突発現象は、LHDのプラズマだけでなく、多くのプラズマで観測されています。核融合プラズマの閉じ込め方式のひとつであるトカマク型の実験装置では、1000分の1秒程度の短時間にプラズマが消滅する突発現象が起こることがあります。また、宇宙のプラズマの突発現象としては、太陽フレアがあります。これらの現象の発生を予測することは重要な課題ですが、なぜ突発的に発生するのかは長年にわたって議論されてきた未解決の問題です。今回LHDで実証された亜臨界不安定という考え方が、それらの解決につながるかもしれません。

以上