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平成28年8月3日
性質の異なる2つの金属をしっかり接着する方法を発見
-高熱負荷を受け止めるダイバータの高性能化に貢献-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 

 大型ヘリカル装置に代表される磁場閉じ込め方式のプラズマ実験装置では、目に見えない磁場のカゴによって高温プラズマを閉じ込めています。ところが、プラズマは徐々にカゴの周辺へと拡散してくるため、プラズマの一部はダイバータという機器で受け止めます。将来の核融合炉ではダイバータは、プラズマと共に高い熱負荷にさらされることになります。そこで核融合科学研究所では、除熱性能の高いダイバータの研究を進めています。そのダイバータは、プラズマに面した部分に金属の中で最も融点が高いタングステンを使用し、受けた熱を、そのすぐ裏側に接着した熱伝導性の良い銅合金でできた管に水を流すことによって除熱します。もうお気づきかと思いますが、除熱性能を高めるためには、タングステンと銅合金を「しっかり接着する」必要があります。金属同士の接着といえば、「溶接を用いれば良いのでは?」と考える方がいらっしゃるかもしれません。しかしながら、タングステンと銅合金は同じ金属でも性質が異なるために互いに混ざり合うことがなく、溶接による接着はとても難しいのです。そこで、ロウ材という接着剤の役割をする紙のように薄い物質を間に挟み込み、900度以上の高温で溶かして接着させる「ロウ付け接合法」が一般的に用いられています。また、タングステンと銅合金は、高温での熱膨張係数(温度によって体積が変化する比率)が大きく異なるため、従来、ロウ材だけでなく、クッションの役割をする柔らかい材料(中間層と呼びます)も同時に挟み込み、接着する必要がありました。ところが、中間層を挟み込むことによって異なる材料を接着する面(接合界面)の数が増えることから、強度が弱くなる上に、除熱性能が下がり、さらには製造コストが上がるという問題があります。タングステンと銅合金を「しっかり接着する」は思っている以上に難しいことなのです。
今回、核融合科学研究所では、タングステンと銅合金の接着に、中間層を使わない新しいロウ付け接合法を開発しました。つまり、中間層を使わなくても、ロウ材(ロウ付け接合層)自身にクッションの役割を持たせることで、強力で壊れにくい強靱な接合を実現するとともに、優れた冷却性能を有するダイバータ試験体の製作に成功しました。
この成功をもたらした要因は2つあります。一つ目は、酸化物分散強化銅(ODS-Cu)という銅合金と、BNi-6というロウ材(成分はニッケル89%、リン11%)を組み合わせて使用したこと、二つ目は、ロウ材の厚さと、ロウ材を溶かして接着するときの熱処理温度や冷却時間を最適化したことです。この方法で製作したタングステンと銅合金の接合体に外から力を加える試験を行った結果、紙のように薄いロウ材(ロウ付け接合層)が変形することで衝撃を吸収し、強靭な接着が実現できたことが分かりました。さらに、この方法で製作したダイバータ試験体に電子ビームによる熱負荷試験を実施した結果、将来の核融合炉で予想される程度の熱負荷においてもタングステンの温度は350℃程度に抑えられ、高い除熱性能が確認できました。350℃は、BNi-6ロウ材の融点(875℃)やタングステンが脆くなる温度(1,500℃)に比べて十分に低い温度です。新たに確立させた接合法では、中間層が無いため、タングステンで受け止めた熱が銅合金に流れる時の抵抗が少ないことが、高い除熱性能に貢献していると考えられます。
この研究で新たに確立させたロウ付け接合法とそれを利用したダイバータ試験体製造技術は、核融合炉用のダイバータの高性能化を実現するだけでなく、核融合炉建設時に問題となり得る製造コストの削減に大きく貢献すると期待されます。今後は、同方法を用いて、核融合炉で使用するダイバータに近い構造の大型ダイバータ試験体を製作し、長期間安定に運転可能なダイバータの設計・製作を目指します。

以上