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平成28年10月5日
回転の減速とともに成長する揺らぎの観測
-ヘリカルとトカマクとの比較-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 オーロラが、ゆらゆらと揺らいで夜空に輝いている様子は本当に美しいものです。オーロラは自然界のプラズマの一つですが、核融合発電に使う人工的なプラズマは、磁場のかごを使って、プラズマを一箇所に閉じ込めなければいけません。ところが、磁場のかごの中にプラズマを閉じ込めようとすると、プラズマ中の多数の粒子がお互いに干渉しあって、プラズマや磁場に「揺らぎ」が生じます。オーロラが揺らぐのは綺麗で済みますが、核融合発電に使うプラズマでは、揺らぎが成長して大きくなってしまうと、プラズマを閉じ込めることができなくなります。そのため、プラズマの揺らぎの性質を調べることはとても大切な研究課題です。今回は、この揺らぎが、回転の減速とともに大きく成長するという、最近の観測結果について紹介します。
大型ヘリカル装置(LHD)の磁場のかごで閉じ込めたプラズマでは、揺らぎが発生すると、多くの場合、その揺らぎは一定の振幅を保ち、一定の速度で回転しています。揺らぎが成長するかどうかは、磁場のかごの形が影響します。磁場のかごの形はプラズマの周囲に配置した電磁石に流す電流の組み合わせで決まりますが、揺らぎが大きく成長するような「不安定な」磁場のかごを意図的に作って実験を行うと、揺らぎの回転速度が低下し始めるとともに成長し、回転が止まると揺らぎがさらに大きく成長する現象が観測されました。また、その結果、プラズマの圧力(温度と粒子密度の積)が急激に低下することも示されています。このような現象はトカマク型の実験装置(以下、トカマクとする)で以前より観測されていた現象と良く似ています。
トカマクでは、揺らぎの回転が止まると急激に不安定になる現象は「ロックされた不安定性」と呼ばれています。「ロックされる」、即ち揺らぎの回転が止まる原因は、磁場のかごを作りだす電磁石の設置精度が悪い場合などに生まれる「不整な磁場」にあると考えられています。実際、「不整な磁場」が存在する位置で揺らぎの回転が停止する傾向にあります。また、トカマクで観測される揺らぎは「磁気島」と呼ばれる構造を形成していることが分かっています。理想的な磁場のかごの断面は年輪のように入れ子状の同心円になっていますが、揺らぎによって磁場のかごにほつれが生じ、三日月形状の島のような構造、即ち、磁気島が現れる場合があります。そのような磁場構造が上記の「不整な磁場」とつながることにより成長し、プラズマが保持できなくなると考えられています。このような不安定性は、トカマクとは違ってプラズマ中に電流を流さないヘリカル型の実験装置では、通常は発生しないと予測されていました。そのため、LHDで「ロックされた不安定性」が観測されたことは当初驚きであり、一体何が起きているのか謎でした。
この謎を明らかにするため、揺らぎの構造とその時間変化を詳細に調べています。最近の計測結果によれば、LHDにおいても、少なくともロックされる前に揺らぎが磁気島の構造を持つ可能性があることが分かりました。通常は磁気島を作らないと考えられている揺らぎが、いつ、どのような場合に磁気島を持つ構造に変化するのか、理論と実験の両方で積極的に研究を進めています。このような不安定性は特殊な磁場のかごで実験を行った場合にのみ発生しますので、かごの形を最適化するなどして、避けることは可能です。また、特殊なかごであっても、不安定性をプラズマの回転を停止させない等の何らかの制御を行うことにより安定化することができれば、様々な磁場のかごでプラズマの温度や密度を高い状態で維持できることになり、将来の核融合炉の設計の幅が広がることになります。トカマクにおける観測結果との比較を通じて、ヘリカルプラズマで発生する揺らぎの性質の理解、制御手法の確立を目指し研究を推進します。

以上

通常、プラズマを閉じ込めるための磁場のかごは同心円の形をしていますが、何らかの原因で、図のように三日月形状の「磁気島」が発現することがあります。