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平成28年12月7日
高速粒子によるプラズマの振動を解明する
-粒子と流体のハイブリッドシミュレーション-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合発電は、重水素と三重水素の核融合反応を利用します。核融合反応によって発生する高速のアルファ粒子(ヘリウムイオン)は、プラズマを加熱して核融合反応に必要な高温状態を保持する重要な役割を担っています。そのため、高速アルファ粒子の挙動の予測と制御は、核融合反応を持続させる鍵を握っています。今回は、高速粒子の挙動を高精度に予測することを目指して開発されたシミュレーションプログラムを紹介します。
高速アルファ粒子の挙動を考える上で重要となるのが、プラズマの振動です。プラズマは、総体として捉えると電気を通す流動体でもあり、電流が流れることによって磁場が発生することから、磁気流体と呼ばれています。磁気流体であるプラズマは、水に例えると、水面に波が立つように振動します。このようなプラズマの振動周期と、高速アルファ粒子がプラズマ内部を周回する周期が一致すると、共鳴によって振動の振幅が増大する可能性があります。その結果として、高速アルファ粒子がプラズマ外部へ飛び出してしまうので、核融合炉の性能が低下することが懸念されています。核融合発電を実現するためには、プラズマの振動との相互作用を考慮した、高速粒子の挙動と分布に関する信頼性の高い予測が必須です。
核融合科学研究所では、この信頼性の高い予測を目指して、プラズマの様子と、高速粒子の動きを同時にシミュレーションできるプログラムを開発してきました。このシミュレーションは、流体と粒子を連結して計算するので、ハイブリッド・シミュレーションと呼ばれています。これにより、プラズマと高速粒子を別々に計算していた従来の方法では不可能だった、プラズマの振動と高速粒子との相互作用を、シミュレーションで詳しく調べることが可能になりました。このハイブリッド・シミュレーションプログラムを用いて、スーパーコンピュータ上で大型ヘリカル装置(LHD)で生成したプラズマの大規模シミュレーションを実行しました。(LHDでは核融合反応を起こしませんが、プラズマ中にある水素の高速粒子を利用して、高速粒子とプラズマ振動についての実験を行っています。)シミュレーション結果は、LHD実験で得られた高速粒子が引き起こすプラズマの振動のデータをよく再現するとともに、実験では計測できない詳しい振動の様子や、振動を増幅させる高速粒子と振動の相互作用を明らかにすることができました。
ハイブリッド・シミュレーションプログラムは、既に、国内や米国のトカマク型実験装置に適用され、高速粒子の分布とプラズマの振動に関する実験結果との比較により、その信頼性が確認されています。今回、より複雑な構造を持つヘリカル型のLHDの実験を再現できたことで、世界中の核融合プラズマ実験装置の高速粒子とプラズマ振動をシミュレーションできるプログラムを、世界で初めて完成させました。現在、ハイブリッド・シミュレーションプログラムを用いて、フランスに建設中の国際熱核融合実験炉 ITERをはじめ、国内外(中国、韓国、ドイツなど)にある実験装置のプラズマ振動と高速粒子のシミュレーションが進行中です。このように、ハイブリッド・シミュレーションプログラムは、将来の核融合炉のプラズマにおける高速アルファ粒子の分布の予測精度を大きく向上させるとともに、世界中で行われている核融合研究の進展に大きく貢献しています。

以上

LHDの高速粒子は、ねじれたドーナツの形をしたプラズマの中を周回し、プラズマの振動を引き起こします。特に、高速粒子の周回の周期とプラズマの振動の周期が一致すると、振動の振幅が大きくなります。