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平成29年9月13日
千々に乱れる流れの構造を櫛を使って測定する
-周波数コムを用いた計測器の開発-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 万葉の時代から日本人にもなじみの深いクシ(櫛)が、プラズマを調べるのにとても役に立ちます、というと奇異な感じがすると思います。ここで使うクシは、「子狐コンコン・・」で始まる童謡に出てくる黄楊(つげ)の櫛ではありません。周波数のクシ、すなわち、周波数コム(櫛の英語はコム)と呼ばれている技術のことです。周波数コムは、沢山の周波数の電磁波を一度に発生させるもので、その電磁波のスペクトル(周波数に対する強度分布)の形が、髪をとかす櫛に似ていることから、そう呼ばれています。周波数コムは、情報通信の分野において、一回の送受信で沢山の情報を得るために開発されてきた技術ですが、これを、高温プラズマの計測に適用することにしました。
プラズマの中では、時折、様々な流れが発生し、それらが乱れて多くの渦ができたような状態になることがあります。このような状態を乱流と呼びます。皆様も太陽の表面に大きな渦が発生している画像やビデオ映像等をご覧になったことがあるのではないでしょうか。このような乱流は、表面だけでなく太陽の内部でも生じています。というよりも、内部の影響が表面に現れていると言った方が良いかもしれません。同じように、大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマの中でも乱流が発生しています。この乱流が大きくなるとプラズマの閉じ込めに悪い影響を与えますので、乱流を調べて抑制する必要があります。
高温プラズマ中の乱流を調べる計測方法の一つに、ミリ波という電磁波のドップラー効果を用いる方法があります。電磁波をプラズマに入射すると、その一部が、動きのある(つまり、乱れた)プラズマによって反射されて戻ってきます。この戻ってきた電磁波の周波数は、プラズマの動きの影響を受けて変化しているため、これを分析することで、乱流の強さや流れの方向を知ることができます(この方法の原理は、私たちにも身近な雨雲レーダーの原理と同じです)。反射される電磁波の周波数は、プラズマの密度によって変わります。LHDのプラズマの密度は場所によって異なります。このため、入射した周波数によってプラズマの位置が、戻ってきた周波数によってその位置のプラズマの動きが分かります。これまでLHDでは、一つの周波数の電磁波だけしか入射していなかったため、ある場所の乱流の情報しか得られませんでした。そこで、今回、周波数コムを用いて、同時に沢山の周波数の電磁波を入射する計測器を開発しました。これにより、プラズマの様々な場所の乱流の情報を一度に調べることができるようになりました。
この計測器をLHDに取り付けて計測した結果、これまで考えていなかったような物理現象を新たに発見することができました。例えば、乱流が塊となってプラズマの中を伝わっているという面白い現象を発見しました。さらに、その伝わるスピードは音速(毎秒340メートル)に近い毎秒100メートル以上と、とても速いことも分かりました。このような現象はプラズマの中の広い範囲を同時に観測していないと分からないことで、周波数コムを用いた計測器によって、初めて知ることができました。また、乱流の強弱は、これまでその場所の電場と関係があると理論的に予測されていましたが、周波数コムを用いることで、この理論を検証するとともに、プラズマ物理を理解する上で重要な新たな知見を実験的に得ることもできました。
このように、周波数コムを用いたことによって、プラズマの乱流についての理解が大きく進展しました。現在、プラズマの更に広い範囲をより精密に観測できるようにするため、計測器を改良していますので、今後、ますます新しい物理現象が発見されると期待しています。

以上

 周波数コムによって発生させた電磁波の周波数スペクトル。クシ(comb:コム)のように見えますが、この一本一本のピークがプラズマの中のある場所の情報を与えてくれます。沢山のピークがあるので、一度に沢山の場所の乱流情報を取得することができます。