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平成30年1月31日
プラズマの熱を逃がす「非接触プラズマ」の高精度シミュレーション
-様々な粒子の振る舞いを追跡する精密な計算プログラムの開発-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)では磁場の力で高温のプラズマを閉じ込めています。プラズマは電子やイオン等の電気を帯びた粒子(荷電粒子)が多く集まってできており、この荷電粒子同士の衝突等の影響で、プラズマは少しずつLHDの中心から外側へと拡散していきます。そこで、磁場の形状を工夫することによって、プラズマをダイバータと呼ばれる機器に導いて、そこに配置されている特別な板(ダイバータ板)でプラズマの粒子と熱を受け止めています。将来の核融合炉では、ダイバータ板には非常に大きな熱負荷が予想されており、その熱負荷をいかにして減らすかが重要な課題となっています。この課題を解決するため、「非接触プラズマ(デタッチプラズマ)」という方法が提案されています。これは、ダイバータに導かれてきたプラズマとダイバータ板の間に低温の中性ガスを導入することでプラズマの熱を逃がす(つまり、プラズマのエネルギーを電磁波にして四方に放散させ、ダイバータへの熱を減らす)というものです。この非接触プラズマの生成条件やその状態に至る物理過程を明らかにする研究は、LHDだけでなく、大学の研究室の小規模な実験装置でも行われています(LHDでの研究についてはバックナンバー298をご参考ください)。このような実験研究に加えて、非接触プラズマの詳細な物理の解明とその予測には、高精度なコンピュータシミュレーションを用いた研究が欠かせません。
プラズマを構成する電子やイオン等の荷電粒子は、電気的な力によって相互に影響を及ぼしあって運動していますが、非接触プラズマにおいては、これらの荷電粒子と導入した低温の中性ガスを構成する粒子(中性粒子)との衝突も重要な役割を果たします。荷電粒子と中性粒子が衝突すると、中性粒子から電子が剥がれたり、中性粒子の電子がイオンに乗り移ったりといった反応が起こって、プラズマの振る舞いに影響を及ぼします。このため、非接触プラズマの生成を高い精度でシミュレーションするためには、多数の荷電粒子の運動を物理法則に基づいて追跡しつつ、個々の荷電粒子が中性粒子と衝突して反応する過程も追跡するという精密な計算が必要です。研究所では、このような粒子レベルからの計算を行うプログラムの開発を進めています。
高精度な計算プログラムを用いて、LHDのような大型実験装置と同じサイズをシミュレーションするには、最新鋭のスーパーコンピュータを用いても膨大な時間を要します。そこで、まずは、大学の研究室にある小規模な直線型実験装置(真っ直ぐな磁力線を使ってプラズマを閉じ込める実験装置)を約10分の1のサイズに縮小したモデルで、シミュレーションを行うこととしました。そして、研究所のスーパーコンピュータであるプラズマシミュレータの性能を効率良く活用できるように計算プログラムを最適化してシミュレーションを行った結果、ダイバータ板の近傍に中性ガスを入れると、プラズマの温度が低下してダイバータ板の熱負荷が減ること、ダイバータ板の前面でプラズマの温度と密度の急峻な勾配ができること等、非接触プラズマの特徴を再現することに成功しました。また、非接触プラズマの生成時にイオン温度と電子温度が低下しますが、その低下の原因を粒子レベルから示すことができました(イオンと中性粒子との衝突や、イオンと電子の電気の力を介した相互作用によって、温度が低下します)。
このように、高精度シミュレーションにより、非接触プラズマを概ね再現し、その物理の詳細を調べることができるようになりました。今後の課題は、計算の精度を更に高めるために、プラズマの温度が非常に低くなった際に重要となる、イオンと電子が結合して中性粒子になる過程を組み込むことです。また、非接触プラズマは、装置の大きさ、プラズマの温度、中性ガスの供給方法や種類等の条件によって異なった様相が現れることが実験で示されています。計算プログラムの更なる開発を進め、シミュレーションによって、非接触プラズマの条件による違いを理解して予測するとともに、その制御方法の確立に貢献することを目指します。

以上

直線型装置を模したシミュレーション。左側の境界にダイバータ板を配置しています。赤がプラズマ生成領域、青が中性ガス領域になっています。曲線は、イオン温度、電子温度、イオン密度の空間分布で、ダイバータ板近くで、イオン温度と電子温度がともに低くなり、ダイバータ板の熱負荷が減っています。