HOME > 研究活動 > 研究レポート > プラズマ中に現れる非対称性

平成30年8月29日
プラズマ中に現れる非対称性
-重イオンビームプローブによる密度計測と理論の比較研究-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 物理研究において「対称性」は非常に重要な概念です。対称性とは何でしょうか?例えば、「✩」のマークは、その中心を通る縦線を折り目にして折るとぴったり重なるので、その線について対称です(つまり、左右対称です)。また、マークの中心を軸にして72度回転しても形は変わらないため、この回転に対しても対称です。物理研究では、現象に対称性があると、対称性に基づいて考察することにより、その現象が理解しやすくなります。複雑な振る舞いをするプラズマの性質を理解したり、制御したりする上でも、対称性に基づいた研究が大きな役割を果たしてきました。その一方で、対称性が破れるような現象も、重要な研究課題です。近年の計測技術、理論、数値シミュレーション技術の発展により、プラズマ中に現れる非対称性を検出し、その性質を議論できるようになってきました。今回は、大型ヘリカル装置(LHD)で発見された非対称性に関する研究をご紹介します。
高温のプラズマ中では様々な振動が発生し、それに伴ってプラズマの密度の変動(揺らぎ)が起こっています。LHDのプラズマは、ねじれたドーナツの形をしていますが、そのドーナツを垂直に切った断面において、密度の揺らぎの分布を計測したところ、通常は、その断面において上下対称になっている密度揺らぎが、上下で大きく非対称になる場合があることが明らかになりました。プラズマの中になぜこのような大きな非対称性が発生するのか、九州大学との共同研究によって理論的な検討が進められた結果、プラズマを加熱するために入射された高エネルギー粒子の効果が重要であることが分かってきました。理論によると、高エネルギー粒子の運動とプラズマの振動が共鳴することにより、高エネルギー粒子の密度の揺らぎが上下で大きく非対称になります。この高エネルギー粒子の上下非対称性が、実験で観測された非対称性において大きな役割を果たしている可能性があることが分かってきたのです。
そこで、この理論を検証するために、実験データの解析を進めました。LHDでは、重イオンビームプローブ(以下、「HIBP」とします)という計測器を用いて、プラズマの密度の揺らぎを計測しています。HIBPでは、プラズマの外から高速の重イオン(例えば金などの重い元素のイオン)のビームをプラズマに打ち込みます。重イオンはプラズマの中でプラズマの粒子と衝突すると、その電荷の数が変わり、その後プラズマの外に飛び出してきます。どのくらいの重イオンがプラズマと衝突するかはプラズマの密度によります。そこで、電荷数が変わって飛び出してきた重イオンの量を精密に計測し、その計測データを解析すれば、プラズマの密度が分かるのです。これまでHIBPの計測データを解析する際に、高エネルギー粒子の存在は考慮していませんでしたが、今回、高エネルギー粒子の密度の揺らぎまで考慮して解析を行った結果、実験で計測されたプラズマの密度揺らぎの大きな非対称性を、理論的に説明できることが明らかになりました。これにより、理論予測の検証が一歩進んだことになります。次回の実験では様々な実験条件を変えることにより、理論の検証を更に進める予定です。
また、この理論に基づくと、このような揺らぎの非対称性が、イオンの加熱を引き起こしたり、プラズマの閉じ込めに影響を与えたりするなど、核融合研究という観点からも興味深い現象が予想されます。実際に、このような非対称性が発生した場合に、イオン温度の上昇が観測されることがあります。まだ因果関係については結論が出ていませんが、それを調べるための実験の準備を進めています。

以上

プラズマの断面で電子や高エネルギー粒子の密度がどのように変動するかを理論によって予測した結果

図:(a)と(b)は、プラズマの断面で電子や高エネルギー粒子の密度がどのように変動するかを理論によって予測した結果です。プラズマの中心が(x, y)=(0, 0)の点で、縦軸(y)は中心からの上下位置を、横軸(x)は中心より内側か外側かを示しています。密度が減少している部分は水色~青色、密度が増加している部分は黄色~赤色で、色が濃いほど変動が大きいことを表しています。電子密度の変動(揺らぎ)は、増減は逆ですが、上下でほぼ対称です。一方、高エネルギー粒子密度の変動(揺らぎ)は、上下で非対称です。(九州大学 佐々木真博士提供)
(c)は、LHDの実験において、左図の太い点線で示した位置でプラズマの密度揺らぎの大きさを計測した結果です。プラズマ中心は縦軸の0.0(横点線)の位置で、密度揺らぎの振幅の大きさ(横軸)が、左図の太い点線に沿って中心より下で大きく、上下で非対称になっていることが分かります。
計測したデータを解析する際に、理論で予測される高エネルギー粒子の密度分布(b)を考慮すると、y>0では、電子密度の揺らぎ(a)による負の信号が、高エネルギー粒子密度の揺らぎ(b)による正の信号によって打ち消されるため、プラズマの密度揺らぎの信号の振幅(c)が小さくなります。これにより、実験で観測された非対称性(c)が理論的に説明できるようになりました。