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平成30年11月1日
核融合科学研究所と中国西南交通大学の共同プロジェクト
-準軸対称ヘリカル装置CFQSの建設-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合科学研究所は、世界中の大学や研究機関と学術協定を結び、多くの共同研究を進めています。2017年7月には、中国西南交通大学と国際学術交流協定を結び、中国初のヘリカル型実験装置の建設に向けた設計研究を開始しました。今回は、この日中共同プロジェクトについてご紹介します。
核融合発電を実現するためには、高温・高密度のプラズマを閉じ込めて、長時間維持することが必要です。プラズマは電気を帯びた粒子であるイオンと電子から構成されており、それらの粒子は、磁力線に巻き付く性質があります。このため、磁力線の端と端をつなげて、ドーナツ型の磁力線のカゴを作ることで、カゴの中にプラズマの粒子を閉じ込めることができます。しかし、単純なドーナツ型では、曲がった磁力線やプラズマ中にできた電場による作用により、粒子が磁力線のカゴの外へと逃げてしまい、プラズマを長時間維持することができません。そこで、磁力線にひねりを与えて、らせん状(ヘリカル状)の構造を作り出すことで、粒子を逃げにくくしてプラズマを閉じ込めます。
プラズマを磁場で閉じ込める装置には、ひねりの与え方によって、トカマク型とヘリカル型の2種類があります。トカマク型の装置では、プラズマは単純なドーナツ型をしており、ドーナツの中心を軸に回転しても形が変わりません(これを「軸対称性がある」と言います)。このプラズマの中に大きな電流を流すことでひねりを与え、らせん状の磁力線構造を作ります。これに対し、ヘリカル型の装置は、磁力線を発生させるコイルそのものをひねることで、磁力線をらせん状にしています。そのため、ヘリカル装置では、プラズマ中に電流を流す必要がなく、プラズマは磁力線のカゴに沿ってねじれたドーナツ型(軸対称性がない)になります。プラズマ中に電流を流し続けるのは大変難しいため、これを必要としないヘリカル装置は、プラズマの長時間維持に優れた装置と言うことができます。一方で、ヘリカル装置はトカマク装置と比べて軸対称性がないこと等から、理論的には、プラズマの粒子がカゴの外に逃げやすいとされてきました。
そこで、ヘリカル装置において、プラズマ中に電流を流す必要がなくプラズマの長時間維持に優れるという利点を保持しつつ、粒子が逃げにくい装置の設計・実験研究が行われてきました。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)では、コイルに流す電流量を調整することにより、粒子を逃げにくくしています。このことは、ヘリカル装置における世界初のイオン温度1億2,000万度の達成にも貢献しています。ヘリカル装置では、コイル形状を自由に選ぶことができるので、それを工夫することにより粒子を更に逃げにくく改善できる可能性があります。これを最大限活かして、ヘリカル装置とトカマク装置の良い所取りをしようというのが、「準軸対称ヘリカル装置」です。準軸対称ヘリカル装置は、理論的には研究されていますが、実際の実験装置はまだ実現されていません。
核融合科学研究所では、中国西南交通大学との日中共同プロジェクトとして、世界で初めてとなる準軸対称ヘリカル実験装置CFQSの建設に向けた設計研究を進めています。CFQSは、中国西南交通大学に建設される予定です。CFQSの設計においては、まず、閉じ込めに適した磁力線のカゴとプラズマの形状を決定しました。これには大変な計算が必要なため、スーパーコンピュータを利用しました。そして、磁力線のカゴとプラズマの形状が決定した後に、それに合うようにコイルを設計しました。これらの計算や設計には、以前に核融合科学研究所で実施された準軸対称ヘリカル装置CHS-qaの設計研究で得られた数多くの成果が取り入れられています。現在、磁力線を発生させるコイルの試験体作成に向けて設計研究を着実に進めており、2021年の装置完成を目指しています。CFQSの完成後は、プラズマの閉じ込めが良くなることを実証する実験を始め、多くの研究が核融合科学研究所と西南交通大学との共同で進められる予定です。核融合科学研究所の多くの研究成果がこの共同プロジェクトに大きく貢献するとともに、ヘリカル研究の更なる進展が期待されています。

以上

図1 スーパーコンピュータによる計算を元に得られた準軸対称ヘリカル実験装置のプラズマ形状。色は磁場の強さを表しており、赤の場所で磁場が強く、黄、緑、青の順に磁場が弱いことを示しています。これまでのヘリカル装置はコイルに近い場所で磁場が強くなっていましたが、準軸対称ヘリカル装置では、コイルの場所に関わらず、プラズマの内側で磁場が強く、外側で弱くなっています。これは、トカマク装置と同じ磁場構造です。CFQSの装置規模は、磁場強度が1テスラ、大半径(ドーナツの中心からプラズマの中心までの距離)が1メートルです。

図2 現在設計中の準軸対称ヘリカル装置CFQSの磁場コイル(青、緑、茶、薄ピンクで示した部分)とプラズマを閉じ込める真空容器(灰色で示した部分)の概略図。真空容器を囲むように設置された環状の磁場コイルがとても複雑な形をしていることが、この装置の特徴です。