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平成30年11月21日
大型超伝導磁石冷却装置の運転シミュレータ
-最適な設計と運転方法の早期確立を目指して-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)では、大きな超伝導磁石をマイナス270度という極低温に冷却することで、プラズマを閉じ込めるための強力な磁場を発生させています。将来の核融合炉では、LHDよりも更に大きな超伝導磁石の使用が考えられており、その磁石の冷却装置の設計と運転方法の確立も重要な課題です。今回は、その課題の解決に大きく貢献すると期待されている、冷却装置の運転シミュレータの開発研究についてご紹介します。
「運転シミュレータ」というと、皆さんは、自動車や電車、飛行機のシミュレータを思い浮かべることと思います。超伝導磁石の冷却装置は、自動車のように走ったり、電車のように多くの人を乗せ秒単位で運行したり、飛行機のように飛んだりしません。では、超伝導磁石の冷却装置の運転シミュレータってなに?と思われるでしょう。まずは、その必要性をご説明します。
LHDを代表とする大型超伝導磁石を利用した装置は、特別な実験用に作られることが多く、基本的にはオーダーメイドです。その超伝導磁石の冷却装置も、必要な冷却温度や能力を得るために、その磁石に合わせた設計・製造が行われます。つまり、大型超伝導磁石とその冷却装置は、それぞれ唯一の存在と言えるのです。そのような装置を運転する際に問題となるのは、「どうしたら効率的な冷却ができるか」という経験がないことです。効率的な冷却方法を探るためには試行錯誤が必要ですが、LHDの超伝導磁石は約800トンもの重さがあるため、何らかの変化を与えても、その後数十分間も反応がないことがあります。また、冷却に関する制御情報は1,000点以上もあるため、そこから判断し、最良の運転方法を決定することは容易ではありません。LHDでは何回も試行錯誤を繰り返すことで、初めて満足できる冷却方法を見つけることができました。その結果、LHDの超伝導磁石の冷却に必要な期間は、運転を開始した20年前には約1ヶ月かかっていたところ、現在では約3週間に短縮できました。
このように、現状では、大型超伝導磁石とその冷却装置の運転方法を確立するまでに、何年もの期間と経験が必要になっています。この現状を打開するための切り札がシミュレータです。これは、コンピュータの中に超伝導磁石と冷却装置を構築し、コンピュータを操作することで装置の運転を模擬するシステムです。その開発に成功すれば、装置を実際に運転する前に、様々な調整や思い切った挑戦が可能になり、その情報は装置の設計にも反映できます。その結果、運転しやすく効率の高い装置の設計が可能になると同時に、建設直後から理想的な冷却が可能になります。さらに、電車や飛行機のシミュレータのように、装置の運転員教育にも利用できます。
核融合科学研究所では、このようなシミュレータの実現を目指して、C-PREST(低温プロセス実時間シミュレータ)の開発を行っています。現在、C-PRESTでは、大型超伝導磁石の冷却方法を高精度で模擬する研究を行っていますが、シミュレータの有効性を調べるためには、シミュレータの結果が実際の実験結果と一致するかどうかを確認する必要があります。そこで、今回、フランスのグルノーブルにあるフランス原子力庁の研究所で実施された実験をC-PRESTで再現することを試みました。フランスの研究所で行われた実験は、ヒータ付きの3つのテスト配管を直列につなげ(全長は130mです)、その配管の中に極低温の超臨界ヘリウムという冷却材を流すことで、超伝導磁石の冷却を模擬するというものです。3つのテスト配管に掛かる熱負荷を変動させて、冷却材の冷却性能を調べる試験が行われました。この実験にC-PRESTを適用し、それぞれのテスト配管への熱負荷をコンピュータに入力して、供給口から入った超臨界ヘリウムの温度が出口でどのように変動するのかを計算しました。その結果、C-PRESTのシミュレーション結果が実際の実験を良く再現していることが確認できました。
今後は、C-PRESTの開発研究を更に推進し、大型超伝導磁石だけではなく冷却装置を含めた装置全体の運転シミュレータの構築を目指します。

以上

図1 運転シミュレータの開発イメージ。シミュレータの心臓部は計算機ですが、これを操作することで、装置の運転を模擬できるようになります。

図2 フランス原子力庁の研究所の実験とC-PRESTによるシミュレーション結果の比較。(a)供給側から1・2・3と並んでいる各テスト配管への熱負荷の時間変動。(b)供給口と出口での冷却材(超臨界ヘリウム)の温度変動。実験とC-PRESTの結果は良く一致しています。