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令和元年7月31日
プラズマの流れと安定性のコンピュータシミュレーション
-高温プラズマの安定な閉じ込めに向けて-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合発電を実現するためには、高温のプラズマを磁場のカゴで安定して閉じ込めることが必要です。ところが、プラズマの温度や密度を上げていくと、プラズマが不安定な状態になって、磁場のカゴの中心から外側に向けて逃げ出していく可能性が高くなります。どうすればプラズマを安定して閉じ込めることができるのか、その方法を確立することは核融合研究における重要な課題の一つとなっています。

 プラズマの閉じ込めを安定化する効果を持つものとして注目されているのが、「プラズマの流れ」です。プラズマは電気を帯びた粒子(電子とイオン)がバラバラになって飛び交っている状態ですが、それらの粒子が集まって移動するのが「流れ」です。大型ヘリカル装置(LHD)はドーナツの形をしていますが、多くの実験で、このドーナツの中をぐるぐると回転するプラズマの流れが観測されています。最近、このプラズマの流れが遅くなると、磁場のカゴで閉じ込めたプラズマが不安定になること(不安定性と呼びます)、そして、その流れが止まった時に、磁場のカゴの中心から外側に向かって、プラズマが逃げ出していくことが分かってきました。この現象を逆に考えると、プラズマの流れが不安定性を抑える効果(つまり、安定化する効果)を持っているのではないかという仮説を立てることができます。そこで、この仮説を検証するため、プラズマの流れと不安定性の関係を、コンピュータシミュレーションを用いて調べています。
ねじれたドーナツの形をしているLHDプラズマのシミュレーションを行うには、プラズマ中の全領域における流れの情報が必要です。LHD実験ではプラズマの流れの速度が精力的に計測されていますが、その計測は、プラズマを突きぬくある直線の上だけに限られています。つまり、これ以外の領域の流れの情報は、計測では得られません。そこで、直線上の計測データをもとに、プラズマ中の全領域の流れを計算する手法を開発しました。そして、この手法を用いて、LHDプラズマの全領域におけるプラズマの流れを再現することができるようになりました。
このようにして得られるプラズマの流れの計算結果を用いて、この流れがプラズマの不安定性を抑制するかどうかを調べるためのシミュレーションを進めています。LHDプラズマの圧力はドーナツ断面の中心で高く、周辺で低くなっています。この圧力勾配が大きくなると、プラズマが不安定になることが知られています。また、プラズマを閉じ込める磁場のカゴの形を変えると、より不安定になりやすい場合があります。今回のシミュレーションでは、磁場のカゴの形を調整することで、実験よりも不安定な状態を設定しました。こうすることで、プラズマの不安定性をはっきりと示して、その特徴を理解しやすくできるのです。そして、流れの強さが異なる幾つかの場合についてシミュレーションを行って、流れと不安定性の関係を調べてみました。その結果、流れが弱いとプラズマは非常に不安定で、プラズマの一部が磁場のカゴの中心から外側に向かって逃げ出しますが、流れを強くするとプラズマは安定になって、プラズマの逃げ出しが抑えられることが分かりました。ところが、流れを更に強くすると、再びプラズマが不安定になるという結果になったのです。そこで、この原因を調べてみたところ、流れが弱い場合は、プラズマはその圧力勾配が原因で不安定になっているのに対し、流れが強い場合は、この流れ自身がプラズマを不安定にしていることが分かりました。つまり、流れの強さがある値までは、流れは圧力が原因の不安定性を抑制する効果がありますが、それ以上は逆にプラズマを不安定化することが分かったのです。
今後は、更に様々なシミュレーションを行って、プラズマの流れと不安定性の関係の詳細を明らかにするとともに、実験結果との比較を進めて、プラズマを安定して閉じ込める方法の確立に貢献していきます。

以上

図

図: 計算によって得られたLHDプラズマの流れの様子。それぞれの線がプラズマの流れの方向を表していて、プラズマはドーナツの中をらせん状に流れていることが分かります。色の違いは、流れの強度を表しています。ドーナツの内側の方が、外側よりも、流れが強いことが分かります。