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令和元年11月6日
高周波数電磁波による電流駆動の効果を調べる
- 現有の加熱装置で効率良くイオン温度を高めるには -
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 大型ヘリカル装置(LHD)では、核融合発電の実現を目指し、高温のプラズマを生成して維持する研究を行っています。プラズマを高温にするには加熱装置が必要で、LHDには3種類の加熱装置があります。1つは高速の中性粒子ビームをプラズマに入射して加熱する装置(NBI)、他の2つは強力な電磁波をプラズマに入射するもので、高い周波数の電磁波を使って電子を加熱する装置(ECH)と、低い周波数の電磁波で主にイオンを加熱する装置(ICH)です。これまでの研究の進展の中でこれらの加熱装置の増強を進め、核融合を実現するための最も重要なプラズマ条件の1つであるイオン温度1億2000万度の達成など、プラズマ性能の向上に大きく貢献してきました。その一方で、現有の加熱装置でいかに効率良くイオン温度を高めることができるかも重要な研究課題です。今回は、電子加熱用のECHの電磁波の入射方法を工夫することで、イオン温度の向上を目指す研究を紹介します。

 今回紹介する実験では、基本パターンとして、プラズマ中のイオンをNBIで加熱して、高いイオン温度にします。LHDに設置されている5台のNBIから高速中性粒子ビームをプラズマに順次入射して重畳していくため、最後の5台目のNBIの入射が始まった後に最高のイオン温度が得られます。この最高イオン温度となるタイミングにECHの電磁波もプラズマに入射して電子を加熱するとどうなるでしょうか? 電子温度が上がり、その結果イオン温度も更に上がるのではと、皆さんは思われるかもしれません。ところが、元のイオン温度が高い場合に特にそうなのですが、イオン温度は下がってしまうのです。これは、プラズマ中に乱れが生じ、その乱れがプラズマをかき混ぜてしまうからだと考えられています。
そこで、同じECH電磁波を使って、イオン温度を向上させることができないかを試みました。注目したのは、ECH電磁波は、電子加熱だけでなく、プラズマ中に電流を流す(電流駆動)ためにも利用できるということです。プラズマ中の電流が変化すると、プラズマ内部の電場や磁場の状態が変わり、イオン温度も変わる可能性があります。この電流駆動の効果を調べるため、ECHの電磁波の重畳時間と入射方向を、次のように設定しました。重畳時間については、最後の5台目のNBIの入射開始時刻より前に重畳を開始し、その時刻の直前に重畳を終了しました。また、ECH電磁波の入射方向を、ドーナツ型のプラズマを上から見た場合の時計回りの方向と反時計回りの方向の2通りとしました。時計回り方向入射と反時計回り方向入射では、ECH電磁波によって駆動される電流の向きが異なるからです。そして、5台目のNBI入射後のイオン温度分布を計測し、ECH電磁波の重畳が無い場合(基本パターン)と、ECH電磁波を時計周り方向に入射した場合、反時計回り方向に入射した場合について、それぞれのプラズマ中心のイオン温度を比較してみました。その結果、基本パターンに対して、中心イオン温度は、時計周り入射の場合は上昇し、反時計周り入射の場合は低下することが分かりました。つまり、NBIによる加熱状況は同じであるにもかかわらず、ECH電磁波の重畳によって駆動される電流が異なることで、イオン温度が変わったのです。この電流駆動がイオン温度に影響を及ぼす仕組みはまだ分かっておらず、今後それを明らかにするための研究を進めていきます。
このように、現存の加熱装置の運用を工夫することでプラズマを高性能化するための研究を積み重ね、より効率的に核融合を実現するための方策を明らかにしていきたいと思います。

以上

図イオン温度分布の比較

図 イオン温度分布の比較。ECH電磁波の重畳が無い場合(基本パターン)のプラズマ中心(プラズマ半径が0の位置)のイオン温度は約3600万度です。これに対し、ECH電磁波を時計回り方向に入射して電流を駆動した場合(時計回り入射)は、中心イオン温度は約4000万度と上昇し、反時計回り方向に入射して電流を駆動した場合(反時計回り入射)は、約3000万度と低下しました。これらのイオン温度は、5台のNBIの入射を行っている時に計測された値です。NBIによる加熱状況は共通であるため、ECH電磁波により駆動された電流が、イオン温度に影響を及ぼすことを示しています。