HOME > 研究活動 > 研究レポート > 混ざり合うプラズマを世界で初めて観測

令和2年6月3日
混ざり合うプラズマを世界で初めて観測
-重水素と軽水素が発する光を分離して計測-
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 原子核は陽子と中性子から構成されていますが、陽子の数が同じで中性子の数が異なるものを同位体と言います。陽子が1個の水素の同位体には、軽水素(中性子数0)・重水素(中性子数1)・三重水素(中性子数2)の3種類があります。将来の核融合発電は、この内の2種類の水素同位体(重水素と三重水素)を燃料として発電炉の中に注入します。そして、それらが上手く混ざり合った状態で初めて核融合反応が起こります。そのため、水素同位体が上手く混ざり合っているかどうかを知ることが非常に重要です。ところが、水素同位体は性質がほとんど同じであるため、その割合を計測することは極めて困難でした。核融合科学研究所では、大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験で、2種類の水素同位体(軽水素と重水素)の割合を計測することに成功し、それらが混ざり合っていない状態から、混ざり合っている状態へと変化することを世界で初めて発見しました。

 LHDではプラズマの温度を高めるために、重水素のプラズマを用いた実験(重水素実験)を2017年より行っています。さらにLHDでは、将来の核融合発電で用いられる重水素と三重水素の混合プラズマを模擬して、重水素と軽水素の混合プラズマ実験も行っています。この水素同位体混合プラズマにおける重水素と軽水素の割合(密度の比)を計測するために、高速の粒子ビームをプラズマに入射して、プラズマから発せられる光の波長分布(スペクトル)を分析する方法を用いました。重水素と軽水素が発する光の波長は、1千万分の2ミリメートル違います。この波長の差は、赤と青の光の波長の差の1千分の1という僅かな差です。そこで、光の波長を精密に計測するために、LHDに新しい計測器を取り付けました。また、プラズマから発せられる光のスペクトルは、プラズマの密度、温度、プラズマの流れの速さなどによって変化するという性質があります。この効果をスペクトル分析に取り入れるために、プラズマ中のスペクトルに関する高精度な計算解析と、他の計測システムによって得られたプラズマの流速のデータなどを活用しました。これにより、重水素と軽水素が発する光を分離して、重水素と軽水素の密度比の空間分布(場所によってどのような割合で混ざり合っているか)を計測することに成功しました。
このプラズマからの発光スペクトルを分析する方法を用いて、LHDのプラズマに軽水素と重水素を補給した後にそれらの密度比の空間分布がどのように変化するかを計測しました。その結果、重水素と軽水素が「混ざり合っていない状態」から「混ざり合っている状態」へと変化することを発見しました。つまり、プラズマ中で水素同位体が混ざり合うことを世界で初めて観測したのです。さらに、LHDの実験結果とスーパーコンピュータを用いたシミュレーション結果を比較しました。注目したのは、「乱流」と呼ばれる小さい渦状の流れが不規則に並んでいる状態です。乱流にはプラズマをかき混ぜる効果があります。実験結果とシミュレーションを比較したところ、重水素と軽水素が混ざり合っている状態の時には乱流が大きくなっていること、そしてこの乱流はプラズマの中心イオン温度が高い時に発生するものであることが分かりました。この結果は、プラズマ乱流を制御することができれば、水素同位体が上手く混ざり合っている状態を維持することが可能であることを示しています。
このようにLHDの重水素と軽水素の混合プラズマ実験によって、水素同位体の密度比の空間分布を計測し、水素同位体が混ざり合っている状態を維持する方法の開発につながる重要な知見を得ることができました。今後も本研究成果を発展させ、水素同位体混合プラズマの性質をさらに明らかにしていきます。

以上

図1

図 LHDの磁場で閉じ込められたプラズマは、ねじれたドーナツの形をしています。混ざり合っていない状態では、プラズマの中心部で軽水素が重水素よりも多く、プラズマの端の方で逆に重水素が多くなっています。混ざり合っている状態では、プラズマの中心部から周辺部に至るまで、軽水素と重水素の密度比がほぼ一定になっています。