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令和2年9月9日
核融合炉のダイエットに成功
― トポロジー最適化でコイル支持構造物をスリムに ―
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合発電の実現には、プラズマを閉じ込めるための強力な磁場を発生する超伝導コイルが必須です。超伝導コイルには、磁石同士が引き合ったり反発し合ったりするのと同様の力(電磁力)が働きます。その力は非常に大きいため、超伝導コイルが大きく動いたり変形したりするのを防ぐために、コイルの周りを強い材料でできた構造物でがっしりと取り囲み、コイルを支える必要があります。この構造物を支持構造物と呼びます。将来の核融合炉の設計研究においては、この支持構造物の減量が重要な課題の一つとなっています。今回は、自動車部品の設計などで注目されている「トポロジー最適化」という方法を用いることによって、支持構造物の大幅な減量に成功したことを紹介します。

 核融合科学研究所では、発電の実証を目指すヘリカル型核融合炉の設計研究を行っています。このヘリカル型核融合炉のコイル支持構造物の重量は約8,000トンになると予想されています。これは、大型ヘリカル装置(LHD)の支持構造物の20倍、ITER(イーター)の支持構造物の1.6倍以上です。超伝導コイルは極低温に冷却することで性能を発揮しますが、その状態を維持するには、巨大な支持構造物もコイルと同じ温度まで冷却する必要があります。このため、材料コストやコイル冷却用電力の低減が極めて重要な課題であり、支持構造物は強度を維持したまま総重量をできるだけ小さくすることが強く望まれています。つまり、この条件を満たす最適なものになるよう、支持構造物を設計する必要があるのです。
このような設計を行うための手法として近年注目されているのが、「トポロジー最適化手法」です。これは、強度に影響を与えない部分を取り去る(つまり、新たに穴を開ける)ことによって、軽量化する手法です。数学の位相幾何学という分野では、穴を開けることはトポロジーを変化させることに相当するため、「トポロジー最適化手法」と呼ばれています。この手法は、従来の経験や実績からは想像できないような画期的な形状を生み出す可能性があるもので、自動車部品の軽量化やコスト削減に非常に有効であることから近年急速に発展しています。しかし、この手法を、巨大で複雑な構造を持つヘリカル型核融合炉の設計に適用した例はこれまでありませんでした。今回、ヘリカル型核融合炉の設計にトポロジー最適化を初めて適用し、らせん状の超伝導コイルを取り囲む支持構造物の軽量化に取り組みました。
設計のポイントは、取り去っても強度に影響を与えない部分を見つけ出すことです。そのために、構造物の内部に働く力(応力)を計算で調べます。応力が構造物に使用する材料が耐えられる限界を超えると、構造物が壊れてしまいます。このため、それが起こらないような範囲内にする必要があります。そこで、支持構造物の3次元モデルを作成し、それを細かな領域に分けます。そして、各々の領域を取り去っても応力が許容範囲内であるかどうかを繰り返して計算します。この繰り返し計算によって、最低限必要な領域のみを残した最適な形状を見つけることができました。この最適化の結果、コイル支持構造物の強度を維持したまま、総重量を約25%低減することに成功しました。
核融合炉の大幅な減量は、建設時の材料コストや運転時の冷却用電力の低減などに加えて、運転終了後の材料処理の観点からも有益です。今後、トポロジー最適化手法を用いた核融合炉設計研究が更に進展し、核融合炉の発電実証に大きく近づくと期待されます。

※トポロジー 図形の性質を研究する数学分野の一つで位相幾何学とも呼ばれます。トポロジーの考え方では穴を開けたり切り離したりする操作なしに、伸び縮みや曲げることだけによって変形できる図形は全て同じとみなします。 例えば、丸い球と四角いサイコロは同じとなります。しかし、丸い球は、どんなに変形させても新たな穴を開けない限り、ドーナツの形にはなりません。つまり、丸い球とドーナツは異なるもので、穴を開けることはトポロジーを変化させることに相当します。

以上

図1 ヘリカル型核融合炉の概略図。超伝導コイルは、2本のらせん状のヘリカルコイルと4本の円型の垂直磁場コイルで構成されます。超伝導コイルに働く強大な電磁力でコイルが動いたり変形したりしないように、厚さ20cmの高い強度をもつステンレス鋼で作られた支持構造物で強固に支えられています。これらの超伝導コイルと支持構造物は極低温(マイナス196℃からマイナス269℃)に冷却されます。

図2 トポロジー最適化を適用して得られたコイル支持構造物の形状(右図)。左図は従来の設計手法によるもので、これらの形状を円周方向に10個並べるとドーナツのような全体形状になります。これまでの設計では全体で7,800トンだった重量が、トポロジー最適化によって約2,000トン低減できました。今回得られた形状は、これまでの形状と比較すると隙間がたくさんできていますが、十分な強度を維持できていることが強度計算で確かめられました。