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令和2年12月8日
プラズマを利用した異種金属接合技術を開発
ー 産学連携による成果で幅広い応用が期待 ー
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
核融合科学研究所
 

 核融合科学研究所は核融合発電の実現を目指し、世界中の大学や研究機関との共同研究に加えて、民間企業との共同研究も進めています。最近、この産学連携による共同研究によって、核融合研究のみならず、様々な産業分野への応用が期待される画期的な新技術の開発に成功しました。今回は、その新技術の開発研究を紹介します。

 核融合発電を実現するためには、1億度を超える高温のプラズマを長時間維持することが必要です。このため、将来の核融合炉の中で高温のプラズマにさらされる機器には、プラズマからの熱を受け止め、その熱を効率良く取り除くことが求められます。つまり、この機器は高い耐熱性能と除熱性能の両立が必要であり、その開発研究が世界各国で精力的に進められています。一方、私たちの日常生活に不可欠な電気を家庭に送り届ける送電設備や、急速に普及した電気自動車にも耐熱性能と除熱性能を共に満足する部品が必要不可欠で、それらの品質向上と生産コストの低減が求められています。
高い耐熱性能と除熱性能の両立のために用いられる材料が、金属の中で最も融点が高いタングステン(W)と、熱伝導性が高い銅(Cu)です。具体的には、核融合炉の中で高熱にさらされる面にWを使用し、その裏面にCuで作った配管を接合し、その配管に冷却水を流して除熱します。ここで重要になるのが、WとCuという異なる性質の金属を強固に接合することです。これまでWとCuの接合には、異種金属接合の標準的な手法である「ロウ付け」が用いられてきました。これは、二つの金属の間に、接着材の役割をする融点の低い金属(ロウ材)を挟み込み、高温で溶かして接着させるという手法です。しかし、このロウ付けでWとCuを接合すると、接合強度が弱い、接合面に亀裂が発生しやすい等の問題がありました。
そこで、核融合科学研究所は東邦金属株式会社(大阪市中央区)との共同研究によって、プラズマを利用した新しい異種金属接合技術(粉末固相接合法)を開発し、WとCuの強固な接合に成功しました。本技術のポイントは、以下の3点です。①接合する材料どうしを強い力で押し付けながら、大電流を流します。すると材料間の僅かな隙間に「プラズマ放電」という小さな雷が生じ、この雷が落ちた場所が部分的に溶けてくっつきます。この接合過程で、周りに僅かでも酸素があると、Wが酸化して接合不良が発生してしまいます。②そこで水素を用いて、Wの酸化を抑制します。③ 接合面における亀裂の発生を抑えるために、WとCuの粉末を均一に混ぜ合わせた中間層を設けます。これにより、亀裂の原因となる、WとCuの熱膨張の違い(熱による変形の度合いの違い)による接合面の歪みを緩和します。
このような工夫を用いることで、接合面の近傍に生じる欠陥を極めて少なくするとともに、亀裂の発生を効果的に抑制して、WとCuの高強度で高品質の接合に成功しました。本技術は、ロウ付けのような熟練技能が不要であり、処理時間も短く(数分~1時間)、現在研究が進められている他の接合技術と比べて電力消費量は1/3以下です。さらに本技術は、WとCu以外の様々な金属をはじめ、セラミックスやプラスチックといった非金属材料にも適用可能であり、これまで困難とされてきた異種材料間の高品質な接合を可能にする革新的技術です。
将来の核融合炉へ向けた開発研究の過程で生まれた本技術は、今後、同様の技術を必要とする電気自動車、送電設備、鉄道車両や建設重機等の大型機器から、非金属材料を用いる小型・精密機器まで、幅広い産業分野への貢献が期待されます。

以上

図1 今回開発したプラズマを用いた接合法と、従来のロウ付け接合法の違い。

図1 今回開発したプラズマを用いた接合法と、従来のロウ付け接合法の違い。

図2 接合面に生じた欠陥の比較。ロウ付け接合を用いた場合(左)に比べると、本技術を用いた場合(右)は欠陥が極めて少なくなっています。

図2 接合面に生じた欠陥の比較。ロウ付け接合を用いた場合(左)に比べると、本技術を用いた場合(右)は欠陥が極めて少なくなっています。