オープンキャンパス2022

  9月10日(土)に、毎年恒例の秋のイベント、オープンキャンパスを開催しました。今回で25回目となるオープンキャンパスは、「体感!体験!プラズマエネルギー」のテーマのとおり、楽しんで科学に触れることができる体験型イベントです。なお、今回も一昨年、昨年と同様、新型コロナウイルス感染症防止対策のため、オンラインで画面越しに科学に触れていただくことになりました。当日は、延べ588名の方にご参加いただきました。ご視聴いただきました皆さまに改めて御礼申し上げます。

  オープンキャンパスでは、ライブ配信と、あらかじめ制作した動画コンテンツの配信を行いました。ライブ配信では、「大型ヘリカル装置(LHD)見学ツアー」、「公開講座・学術講演会」、「サイエンストーク」、「高校生科学研究室オンライン発表会」、「核融合研究者への道~核融合科学研究所で学ぼう!研究最前線~」の五つを実施しました。

LHD見学ツアー

LHD見学ツアーの様子
1億度の温度を測る「レーザー温度計」

「LHD見学ツアー」については、合計2回行い、延べ250名の方にご視聴いただきました。 本ライブ配信では、司会者席、制御室、本体室、分析エリア(第2回は計測機器室)との4元中継を行いました。まず初めに、司会者から核融合科学研究所、及び核融合エネルギーについて説明しました。続いて制御室を紹介しました。LHDを遠隔で運転するために約400台のパソコンが置かれている制御室では、大画面に映るプラズマの映像をご覧いただき、真空や分光に関する簡単な実験も行いました。

次に、本体室を紹介しました。本体室には世界屈指の大きさを誇るプラズマ実験装置であるLHDがあります。通常の見学ではご覧になれない天井クレーンの高さからの映像や、LHD本体上部や周辺に取り付けてある加熱・計測機器を臨場感のある映像でお届けしました。最後に、第1回では真空容器内の動画をご覧いただき、その後、真空容器から取り出した試料の分析方法を高度な分析装置群が設置されている分析エリアにおいて詳しく説明しました。

第2回では高パワーのレーザーが置かれている計測機器室への中継を行い、どのように1億度を超えるLHDのプラズマの温度や密度を計測するのか説明しました。視聴者の皆様からはチャットで多くのご質問をいただき、LHD見学ツアーの盛り上がりを感じました。

公開講座・学術講演会

「公開講座・学術講演会」では、第1部として平野直樹教授より「水素と核融合のマッチングによる核融合研究の新展開―電力の安定供給の仕組みを踏まえて―」という題目で講演を行いました。電力の需要と供給のバランスを調整するために、生成された電力を貯蔵する方法を紹介し、その一つとして水素という形での電力貯蔵と利用について、核融合研究と水素との関係性と併せて講演しました。自然エネルギー利用の増加に伴い伝統的な揚水発電の使われ方が変化していることや、超伝導コイルを用いた電力貯蔵システムの開発事例を紹介しました。水素の性質や利用方法を紹介し、持続可能な世界に水素が重要な役割を果たすことを説明しました。海外で作られた水素を輸入する取組みや国内で自然エネルギーを用いた水素を生成する取組みも紹介しました。液体水素の冷熱を核融合の超伝導の冷却に利用する、核融合で発生したエネルギーで水素を生成するなど、核融合発電は水素を利用した社会との相性がよいことを説明しました。

  第2部では永岡賢一研究主幹より「人工太陽への挑戦―理解して、制御する―」という題目で講演を行いました。核融合プラズマという自立した複雑なシステムを制御するため、本研究所における最新の研究について紹介しました。核融合反応によるエネルギーが宇宙の星や太陽のエネルギー源であり、軽い元素が融合し重い元素を生み出される反応です。持続可能社会における有効なエネルギー源としての核融合エネルギーを利用した発電が期待されています。核融合エネルギーの利用を実現するために必要な、高温のプラズマを閉じ込めるという研究について、どこまで分かっているか?を解説しました。「輸送」、「乱流」、「ゾーナルフロー」といった専門的な言葉は、絵や美しい写真を用いて丁寧に解説しました。そして、プラズマを閉じ込めている磁場を制御することで、「乱流」中の「ゾーナルフロー」と呼ばれる構造が生まれ、「輸送」を制御することに成功した実験結果を紹介しました。そのような実験を通して、複雑なシステムを『理解すること』から『制御する』研究に進展していることを述べました。今後は、燃焼し続ける太陽のような自立したシステムを制御する方法へと発展をしていくと話しました。

公開講座・学術講演会での永岡賢一教授による講演

高校生科学研究室

「高校生科学研究室」では、オンラインによる高校生による口頭発表会が行われました。核融合科学研究所には毎年多くの高校生が見学、実習に来所されます。そのような高校生の視点で自分たちの高校で研究している内容を発表していただく場となっています。今年は、名古屋市立向陽高等学校、東海大学付属高輪台高等学校、岐阜県立恵那高等学校、愛知県立一宮西高等学校、愛知県立一宮高等学校の5校から10件の発表がありました。

ケルビン発電機、風レンズ、ロボット、燃料電池という専門的なテーマから緩衝材、机から発する音、アルミシートの保温性といった身近なテーマまで非常にユニークな視点で研究が行われていました。どれも素晴らしい発表でしたが、審査の結果「緩衝材による衝撃の緩和」(東海大学付属高輪台高等学校)が優秀賞に選ばれました。

東海大学付属高輪台高等学校の発表「緩衝材による衝撃の緩和」

サイエンストーク

サイエンストークでの三戸利行特任教授による講演

「サイエンストーク」では、三戸利行特任教授による「高温超伝導って、熱いの?それとも冷たいの?」、矢治健太郎特任専門員による「宇宙と核融合、ステキな関係〜太陽編〜」の2本立てで行い、延べ約120名の参加者がありました。特に高温超伝導のトークでは、「LHDでは液体ヘリウム温度の超伝導コイルを使用されていますが、液体窒素温度の超伝導コイルを使用する予定はあるのでしょうか?」などの質問がありました。

「核融合科学研究者への道」では、研究者と参加者が個別に対談し、核融合科学研究所の行っている研究教育活動を紹介しました。「核融合科学研究者への道」は研究所の大学院広報活動の一環として毎年企画・開催しておりますが、今回は、2名の方(大学学部生1名、社会人1名)にご参加いただきました。

参加者の皆様は、将来のエネルギー問題に高い関心を持った方ばかりで、研究所に併設されている総合研究大学院大学(総研大)物理科学研究科核融合科学専攻への進学を真剣に考えている学生の方とは、1時間半に及ぶ個別面談となりました。将来、今回参加していただいた皆様と一緒に研究できる日がくることを楽しみにしています。また、オープンキャンパス終了後、希望者には研究所及び総研大の資料を送付しました。

LEDライトを使った科学実験の動画

動画配信

  動画配信では、新規7本を含む合計23本の動画を公開しました。専門家向けから一般の方向け、さらにはお子様向けまで、多岐にわたる内容をお伝えすることができたと思いますが、その中でも、「核融合研究1分紹介!2022」、「LHD実験の一日(2本の動画で構成)」が特に人気がありました。普段身の回りでは見かけない研究者たちは何のテーマにどのように取り組んでいるのか?ということに参加者の関心が集まったようです。なお、ライブ配信の録画映像、動画コンテンツの一部は、核融合科学研究所YouTubeチャンネルで引き続き公開しています。

(高橋裕己 プラズマ加熱物理研究系 准教授/オープンキャンパス2022実行委員長、
林祐貴 高密度プラズマ物理研究系 助教、
吉沼幹朗 高温プラズマ物理研究系 助教、
矢治健太郎 研究力強化戦略室 特任専門員、
河合小奈恵 大学院連携係 係長、
磯部光孝 高温プラズマ物理研究系 教授、
宇佐見俊介 基礎物理シミュレーション研究系 准教授)