私の履歴書

尾﨑哲

 1986年3月に核融合科学研究所(NIFS)の前身である名古屋大学プラズマ研究所(以下、プラズマ研)の計測センターの助手として採用されてから、おおよそ37年間、多くの先生方、技術部、管理部の職員の皆様には、大変お世話になりました。無事定年を迎えることができました。これまでの研究の遂行、その他の諸々の活動に際して多くの皆様からご教示ご指導いただいたことに深くお礼申し上げます。
 大阪大学原子力工学科学生の時に、将来のエネルギー源として有望な慣性核融合研究に興味を持ち、電気工学科付置であったレーザー核融合研究センター(以下、レーザー研、現レーザー科学研究所)のセンター長の山中千代衛先生に特別にお願いして、レーザー研で卒業研究等を行うことに致しました。レーザー研には、慣性核融合ドライバーとして、激光、烈光の他にパルスパワー装置励電のグループが並行して走っていました。そのうちレーザー核融合実現に一番近いのが激光グループでしたが、私は、あえて励電グループを選択しました。レーザー研では、激光グループに人材が集まるものと思っていました。私のような他学科出身者は電気工学科の出身者と比べて知識の面で劣っているので、激光グループを希望しても山中先生との面接で落とされると考えたからです。

 励電グループでは、今崎一夫・宮本修治両先生の御指導の下、当時完成したばかりのイオンビーム装置励電VI号で実験することになりました。励電VI号はもともと大電力相対論的電子ビーム発生装置として設計されましたが、電子ビームはターゲットとの結合効率が悪いので、軽イオンビームに変更するところでした。両先生の熱血指導の下、幾つかの論文を執筆することができ、1985年、「軽イオンビームによる慣性核融合の基礎研究」と題して博士号までいただきました。1年ほど日本学術振興会の特別研究員を経験したのちプラズマ研に無事就職することができました。

 プラズマ研では、故 門田清先生の指導の下、JIPP-TIIU装置で荷電交換分光を行い、周りの先生方に助けられて何とか就職後最初の論文を書くことができました。プラズマ研が大学共同利用機関核融合科学研究所(NIFS)となることと、大型ヘリカル装置(LHD)の製作が決定され、プラズマ研でもそれに呼応してヘリカル装置であるCHSが作られることになりました。ここでは、分光計測を担当し、CRモデルの計算、リチウムペレットの密度計測や中性粒子ビームのプロトン比の計測を行いました。一方でNIFSが発足し、そこでの計測担当を決めることになりました。森田繁先生の助言で粒子計測を担当することになり、井口春和先生の助言でイタリアのフラスカチ研究所から飛行時間方式の中性粒子分析器を導入しました。これは高エネルギー粒子の挙動解明に成果を発揮しました(図は成果発表したときのスナップ)。その後、須藤滋先生の下で国際共同研究が始まりました。米国オークリッジ国立研究所のライオン博士との共同研究で、窒素冷却の固体半導体タイプの多チャンネルエネルギー分析器を製作することになりました。これにロシアのサンクトペテルブルグ工科大学出身のゴンチャロフ氏が加わり研究を進めました。コンパクト中性粒子分析器を導入しこれでペレット荷電交換粒子計測を開始しました。これを使うとイオンサイクロトロンの加熱領域がはっきり観測できます。また、ベシェフ氏とともに、多チャンネル分析器を製作し、高エネルギーイオンの空間分布を測定できるようになりました。

 さて、並行してレーザー研との双方向研究が始まりました。LHDの計測も落ち着いてきたのでこちらの方に力を入れることにしました。レーザー研では、アメリカの国立点火施設(NIF)で行われている爆縮点火には太刀打ちできなくなったので、高速点火という方法を編み出しこちらに力を入れていました。(NIFでは最近、人類の当面の目標であったQ>1を達成しました。大変感慨深いことです)。これは爆縮したコアを強力なレーザーで追加熱して点火させようというものです。このときに同時に高エネルギーの電子・イオンが発生します。白神宏之先生からの要請でこの電子のスペクトルを測定することになりました。何度か試行錯誤の末、X線ノイズに強く電子とイオンのスペクトルを正確に測定できる分析器を開発しました。その成果を光産業創成大学院大学の北川米善・森芳孝先生のご指導と有川安信・安部勇樹両先生他レーザー研の皆様の協力の下、(この分野では一人前とされる)IAEAの会議とNuclear Fusionにやっと採択されました。

 またパルスパワーについては、全国から先生方に集まっていただく研究会の世話人を仰せつかっております。NIFSでは最大規模の研究会です。今後のさらなる研究、新しい展開を期待いたします。

 紙面の都合上、お世話になった皆様のお名前を記すことができませんでしたが、本当に多くの方々にご指導ご鞭撻を賜りました。この場を借りて御礼申し上げます。

(高温プラズマ物理研究系 准教授)

イタリア・コモ湖畔で行われた国際会議にて