2024アジア冬の学校の開催について

磯部光孝


 自然科学研究機構核融合科学研究所を基盤機関とする総合研究大学院大学先端学術院核融合科学コースは、東南アジアからの留学生の獲得を目指して、2018年度以降、毎年タイにおいて総研大冬の学校を開催しています。これにより、タイからの留学生を核融合科学研究所/総合研究大学院大学に迎えるとともに、総研大冬の学校は、新たな国際共同研究の萌芽の機会としても機能してきました。東南アジアから更なる留学生の獲得及び東南アジアとのより一層の研究交流の発展を図る目的で、2024年2月15日(木)から21日(水)にかけて新たに核融合科学研究所を開催場所とするアジア冬の学校を執り行いました。2024アジア冬の学校開催にあたり、筆者から核融合科学研究所/総合研究大学院大学と研究交流実績のあるタイ王国のタイ国家原子力技術研究所及び三大学に声を掛け、将来、核融合科学研究所/総合研究大学院大学で核融合科学を学びたい学生を募りました。その結果、マハーサーラカーム大学及びモンクット王工科大学トンブリー校から計4名の学生を迎えることができました。加えて、マハーサーラカーム大学理学部物理学科の教員1名が引率役及び教育指導の立場で参加しました。

図1.アジア冬の学校オリエンテーション時の集合写真。左から、榊原悟核融合科学コース長、筆者、タイからの参加学生4名、総研大生、及びマハーサーラカーム大学のシリヤポーン・サンガルーン准教授。

 参加者の皆さんは、2月15日(木)の朝、バンコクのスワンナプーム国際空港から中部国際空港に到着しました。長旅の疲れを癒やす間もなく、午後からは核融合科学研究所にて、榊原悟核融合科学コース長の挨拶、次いで、世話人である筆者及び事務局から全体スケジュール・内容確認等のオリエンテーションを受けました。翌2月16日(金)には、総合研究大学院大学先端学術院核融合科学コースが企画したイベント「核融合科学コースで学ぼう! 研究最前線説明会・講演会」に参加しました。大型ヘリカル装置(LHD)等の研究施設を見学した後、総合研究大学院大学の入学案内、核融合科学に係る講義等を受け、更にタイからの留学生と懇談を行うなどして、終日過ごしました。週末については、自由行動としており、名古屋城を往訪するなどして日本の歴史や文化を学んだようです。現場実習は、2月19日(月)から始まりました。参加学生らは、清水昭博助教の指導の下、核融合プラズマの閉じ込めの状態を議論する上で最重要情報の一つであるプラズマ中のポテンシャルを非接触で測定する世界最先端の重イオンビームプローブについて学びました。次いで2月20日(火)には、小川国大准教授や筆者の指導の下、プラズマ中における高エネルギー粒子の閉じ込め研究で用いる先進的なプラズマ計測機器について学びました。この時、当該分野で研究を行う総研大生も参加し、参加学生の指導を行いました。最終日の2月21日(水)には、高橋裕己准教授の指導の下、主要なプラズマ加熱法の一つである電子サイクロトロン共鳴波加熱と同加熱のメカニズム等について学びました。帰国後、参加学生全員から実習内容を纏めたレポートが提出され、全てのプログラムを修了しました。参加学生からは、せっかくの大変貴重な機会と捉えている様子がうかがわれ、熱心に1週間を駆け抜けてくれました。

図2.核融合プラズマ計測に関する講義の様子。講師は、向井清史助教。

 タイ王国では、タイランドトカマク-1と名付けられた小型のトカマク型装置がタイ国家原子力技術研究所に新設され、2023年7月から同装置を使った核融合プラズマの閉じ込め研究が本格的に始まりました。同国では、核融合科学研究に携わる若手研究者の育成が喫緊の課題となっています。核融合科学研究所とタイ王国との関係について述べますと、今現在、タイ国家原子力技術研究所とチェンマイ大学との国際学術交流協定が有効であり、更にタイの二大学から核融合科学研究所及び総合研究大学院大学との協定締結に向けた提案をいただいている状況です。また、近年、総合研究大学院大学への進学を希望する学生他から相次いで問い合わせが届くなど、世界の核融合科学分野をリードしてきた同じアジアの日本に大きな期待を寄せていただいているように感じています。今後も、東南アジアからの留学生の獲得に向けた活動を継続しつつ、国際共同研究の芽を見つけ、育てることで核融合科学研究所/総合研究大学院大学研究者の研究の機会や場を広げるとともに、学生教育や国際共同研究を通じてタイ王国における核融合科学分野の今後の発展にも微力ながら尽力したいと考えています。

図3.高エネルギー粒子計測機器の実習の様子。左から、マハーサーラカーム大学のシリヤポーン・サンガルーン准教授、小川国大准教授、及び参加学生ら。

(構造形成・持続性ユニット 教授)