オープンキャンパス2024

大谷 寛明


 令和6年10月26日(土)、毎年恒例の秋のイベント、オープンキャンパス(一般公開)を開催しました。今年度も昨年に引き続き、現地での対面形式で実施することができ、多くの皆様にお越しいただくことができました。27回目となる今回は、「体感!体験!プラズマエネルギー」をテーマに掲げ、プラズマや核融合エネルギーについて楽しく学び、体験できる内容を豊富にご用意しました。10月にもかかわらず暑い日が続いていたのですが、当日は薄曇りの天気となりやや過ごしやすい日となりました。土曜日の開催にもかかわらず、約650名の方々にご来場いただき、賑やかな一日となりました。ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。

 久々の現地開催となった昨年に引き続き、企画の選別とブラッシュアップを行うとともに、子供から大人まで楽しく学んでいただく新しい企画や復活させた企画をご用意いたしました。新しい企画は、いま地域の町おこしなどでも活用されている謎解きと、核融合研究の歴史と核融合研の最新研究を紹介するポスター展示、ブックリサイクルです。また、軽食やおやつなどを召し上がっていただくためにキッチンカーを呼びました。コロナ禍以前のオープンキャンパスで子供たちに人気のあった、君だけの記念シールを作ろう企画と工作教室を今回、復活させました。そして、他の大学・研究所には無い独自施設や世界最先端の大型装置である、大型ヘリカル実験装置(LHD)やスーパーコンピュータ、超伝導マグネット実験施設の見学ツアーを行いました。核融合研究は息の長い研究であるため、若手研究者の育成は欠かせません。核融合研でどのような大学院教育を受けることができるかを紹介する大学院生勧誘企画も行いました。研究所が力を入れている産学連携活動の紹介ではオープンキャンパスだけでなく、ものづくり岐阜テクノフェア2024にも出展いたしました。そして、公式パートナーとして核融合研と東北大学の合同チームが参画している「ガンダムオープンイノベーション」活動を紹介するブースも作りました。以下のイラストにイベント一覧をまとめました。

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リアル謎解きゲーム「ロボット充電大作戦!」

 コロナ禍前のオープンキャンパスでもクイズラリーを行い、企画に関するクイズを解いてプラズマ博士を目指してもらいました。今年は、一ひねりを加えた「リアル謎解きゲーム」をご用意しました。「実際に乗れる人型ロボットの搭乗体験会でロボットのエネルギーがすっからかんになってしまった。暗号化された緊急充電マニュアルを読み解いてロボットに充電しよう」というストーリー仕立てで、核融合についての知識を身につけながら、子供だけでなく大人も楽しめる謎解きとなりました。皆さん、夢中になって謎解きにチャレンジされ、アンケートでも「むずかしいけど楽しかった」というお言葉を多数いただき、大変好評でした。

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核融合研究の歴史とユニット研究紹介

 そもそも「核融合科学研究所ってなにをしているところなの?」そんな疑問に答えるのがオープンキャンパスです。核融合研究はどんな研究なのか、核融合研ではどんな最先端研究をしているのか、そんな疑問に答えるためにポスター展示を行いました。核融合研究の歴史は長く、大小さまざまな実験装置がこれまでに作られてきました。そんな実験装置の歴史を振り返る大きな年表(縦1189mm×横2524mm:A0サイズのパネルで3枚分!)を今回作成いたしました。その出来栄えは核融合研スタッフも驚くほどで、来場者の方々も核融合研究の道のりの長さや困難さを実感いただけたのではないでしょうか。また、核融合研のそれぞれのユニットでの最新研究について紹介するポスター展示は研究者が直接疑問に答えるコーナーとなり、活発に議論が行われていました。

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ブックリサイクルとキッチンカー

 ブックリサイクルコーナーとキッチンカーも今年初めて設けた企画です。研究所の図書室は、世界中の核融合・プラズマ研究者に提供する資料や情報の充実をめざし、物理を中心に自然科学・工学など約6万8千冊を所蔵しています。そんな図書室で廃棄処分をした図書や雑誌、さらに教職員の「もう読まないけど、捨てるのはもったいない!」と集まった本を活用してブックリサイクルコーナーを設置しました。研究所の食堂は今年10月にリニューアルされましたが、リニューアルして間がなかったため、オープンキャンパスの時は残念ながら休業でした。そこで、今年初めてキッチンカーを呼び、軽食やおやつを提供しました。

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君だけの記念シールを作ろう! と 工作教室

 君だけの記念シールを作ろう企画と工作教室はコロナ禍前のオープンキャンパスでも人気のコーナーでした。記念シールでは、研究所正面、LHD内部、プラズマシミュレータ、恵那山という4種類の背景からお好みの背景を選び、ヘリカちゃんと一緒に記念撮影ができました。今年もアンケートでは面白かったイベントの第4位でした。工作教室では、「くるくるヘリカちゃん」を作ってもらいました。壁などのものにぶつかると進行方向を変える、お掃除ロボットのようなロボットです。1回の定員が20名で一部の回にすこし空きがあったようですが、他の回は満員御礼でした。どちらの企画も来場記念のひとつとしてよい思い出になればいいなと思いました。

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LHD見学ツアー

 LHD見学ツアーは、通常の施設見学ではご案内していない、大型ヘリカル実験棟の本体室にある大型ヘリカル装置(LHD)をオープンキャンパス限定で公開するため、毎年多くの事前申し込みをいただいています。残念ながら1回の見学で受け入れることができる人数に上限があり、さらに時間が限られるため見学の回数も限られ、どうしても抽選となります。今年は106件(総数296名)もの応募がございました。厳正な抽選の結果、98名の当選となりました。この後にも説明いたしますが、核融合研の大事な役割の一つに若手人材の教育があります。そのため、今年のLHD見学ツアーは将来核融合にさまざまな形で関わる人材を拡げる目的のため、学生の方が1名以上含まれるグループを優先的に選出いたしました。そのため、遠方の大学・高等専門学校所属の多くの学生さんが参加され、高い関心をもって見学いただき、積極的に質問をいただきました。残念ながら抽選から漏れた方々のために、過去に撮影した見学ツアーの様子を休憩スペースで上映いたしました。こちらも関心をもってご覧いただけたようです。

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プラズマシミュレータ「雷神」

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 核融合研究には実際にプラズマをつくる実験研究とともにシミュレーション研究も大事な役割を果たしています。シミュレーション研究はコンピュータに計算させて、言わば、「コンピュータの中にプラズマをつくる」ことで、プラズマで何が起こっているかを調べています。スーパーコンピュータ「プラズマシミュレータ『雷神』」はそんなシミュレーション研究を支えるコンピュータです。本物のスーパーコンピュータを間近で見る機会はなかなかありません。当日は多くの方々が雷神を訪れ、核融合研究におけるスーパーコンピュータの役割など、シミュレーション研究を専門とする研究者が質問にお答えしていました。ちなみに、面白かった企画の第1位は雷神の見学ツアーでした。

バーチャルリアリティLHD

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 シミュレーションで計算された結果や多くの実験観測結果は数値のられつです。この数値のられつから、どんな現象が起きているか、なぜそんな現象が起きるのかを読み解くのは研究者の大事な仕事のひとつであり、研究の醍醐味です。そんな数字のられつを上手に加工して、現象を目の当たりに見せてくれる装置がバーチャルリアリティ(VR)装置です。2016年を皮切りに、これまでより安価でありながら高解像度で広い視野をもつヘッドマウントディスプレイ(HMD)が市場に投入されたため、HMDタイプのVR装置を使ったことがある方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?核融合研はVR装置を科学研究にいち早く投入した研究所であり、没入型と呼ばれる大型のVR装置があります。没入型VR装置はHMDと違って多くの人が一度にVRの世界に入り込むことができ、共同研究のために使われています。オープンキャンパスではそんな共同研究の成果を来場者の皆さんに体験いただきました。体験された来場者数は319名で、全来場者のほぼ半数の方に訪れていただきました。アンケートでも面白かった企画の第5位で、毎年上位に食い込む人気企画です。

空気のない世界のふしぎを体験しよう!

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 毎年、子供たちに大人気のコーナーが「空気のない世界のふしぎを体験しよう!」です。空気の無い状態「真空」にすることができる入れものの中に、ふうせん、マシュマロ、ボール、お水、スライム、ラジコン・ヘリコプターなど、いろいろなものを入れるとどうなるのか、研究者の巧みな説明を受けながら、子供たちが食い入るように実験を眺めているのがとても印象的でした。今年のアンケートでは第2位の企画でした。

超伝導マグネット研究棟大公開! と 超伝導磁気浮上列車

 核融合研には大型ヘリカル実験棟をはじめ、いくつもの専用研究棟があります。今年は超伝導マグネット研究棟を公開いたしました。核融合発電の実現には、1億度を超える高温プラズマを閉じ込める技術や、極低温や超真空の環境を作る技術などが欠かせません。超伝導マグネット研究棟では世界屈指の大型超伝導試験設備を使って、超高温のプラズマを閉じ込めるための超伝導体とそれを冷やすための低温工学を研究しています。この超伝導の応用の一つが、今建設中のリニアモーターカーです。実際に超伝導体を使った超伝導磁気浮上列車の実演も超伝導マグネット研究棟で行いました。普段目にすることのない超伝導の不思議な性質をいろいろと体験いただきました。超伝導磁気浮上列車はアンケートでは面白かった企画の第3位でした。

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産学連携企画

 いま、核融合研究はフュージョンエネルギーとして次の段階に入って官民を挙げての取り組みが本格化して、新聞や報道で耳にした方も多いのではないでしょうか?発電技術としての核融合研究ですが、その研究の過程で例えば、高効率に物を冷やしたり、効率よく加熱したりする技術や、高熱にも耐える材料やその接合技術など、社会に役立つ技術の研究開発にも核融合研は取り組んでいます。核融合研が持っている特許を中心にブース展示を行いました。また、オープンキャンパス前日と当日には岐阜テクノフェア2024にも参加して核融合研の紹介と核融合研が所有する特許の説明を行いました。オープンキャンパスと岐阜テクノフェアでの双方の展示で核融合に興味がある企業の方から熱心な質問をいただきました。

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岐阜テクノフェア2024でのブース展示
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核融合研で博士をとろう と 高校生科学研究室

 核融合研は日本の核融合に関する学術研究の要として、将来の核融合科学を担う若手人材育成を推進する重要な役割を担っています。大学院教育では、総合研究大学院大学先端学術院核融合科学コース、連携大学院、特別共同利用研究員、インターンシップ等での教育指導を推進しており、積極的に若手研究者を育てるという姿勢で教育に取り組んでいます。オープンキャンパスでは高校生や高等専門学校、大学学部生を中心に核融合研での大学院教育や大学院での生活、入試について説明をいたしました。また核融合研は高等学校との教育連携や、高等専門学校生・大学生向けインターンシップの受け入れにも力を入れています。高等学校では理数に重点を置いたカリキュラム、課題研究や探求的な学習活動を展開するスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業が行われていて、その一環として毎年多くの高校生が核融合研を訪れています。オープンキャンパスでは高校生の皆さんが、科学にちなんだそれぞれのテーマについて調査・研究した結果を発表してくれました。

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ガンダムオープンイノベーション活動協力紹介

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 核融合研と東北大学の合同チームはバンダイナムコグループによる「ガンダムオープンイノベーション」活動に公式パートナーとして参画しています。核融合研における「ガンダムオープンイノベーション」活動紹介の企画では「ガンダムオープンイノベーション」における活動を紹介いたしました。来場者にとって身近な「ガンダム」を通じて、プラズマや合金材料の研究について説明いたしました。

市民学術講演会

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 今年の市民学術講演会では、釼持尚輝准教授が「データサイエンスで核融合を制御する!」と題して講演いたしました。データサイエンスは、数学・統計学・情報工学・機械学習・人工知能(AI)などを使って、膨大な量のデータを分析・解析して、実用的な洞察を得る学問です。今年のノーベル賞では、AIの中核を担う機械学習の基礎研究が物理学賞を受賞し、AIでタンパク質の構造を予測する研究が化学賞を受賞したことを皆さんもご存じかと思います。このデータサイエンスは、もちろん、核融合科学の研究にも応用され始めています。この講演ではそのようなデータサイエンスを使った最先端の核融合科学研究を紹介いたしました。この講演会はニコニコサイエンスでも配信して、講演会終了時の視聴者数は1,551名でした。質疑応答では会場と配信視聴者から多くのご質問をいただき、改めて核融合研究に対する関心の高さを実感いたしました。

 最後に本オープンキャンパスは核融合研に寄せられた寄附金及び核融合科学研究会の援助を受けて開催いたしました。改めて御礼申し上げます。

 今後とも、核融合研究をはじめとする学術研究のさらなる発展や人材育成に向けて、皆さまのご支援・ご声援を賜りますようお願い申し上げます。

(可知化センシングユニット 准教授/オープンキャンパス2024実行委員長)