原型炉スクールの開催

横山 雅之

 「日本の核融合原型炉に触れるスクール ~ものづくり、統合イノベーション~」を2025年3月3日、4日の2日間、青森市文化観光交流施設 ねぶたの家ワ・ラッセ(青森市)にて開催しました。本スクールは、文部科学省「原型炉実現に向けた基盤整備」の一環である「2024年度核融合科学研究所スクーリング・ネットワーキング事業」採択事業として実施したものです。量子科学技術研究開発機構(QST)六ヶ所フュージョンエネルギー研究所(以下、QST六ヶ所研)、東京大学、核融合科学研究所(NIFS)六ヶ所研究センターからの委員参画により開催実行委員会を構成しました。

 本スクールは下記の3点を主要な目的として開催しました。

  • 日本の核融合原型炉設計全体の現状と展望に触れる機会を提供(原型炉設計を題材としつつ、核融合炉の全体像を把握する機会)
  • 産業界の皆様を主な対象として、原型炉を見据えた関心喚起とネットワーキング、モチベーションの高揚(自身が取り組んでいる内容を起点として、他者が取り組んでいることとのつながりや原型炉全体から見た位置づけの把握(⇒統合の視点)、産業界におけるつながり強化と新規参入の強化)
  • 青森県内の各種ステークホルダーとの連携強化(青森県内関係者と全国からの参加者との連携強化)

 原型炉設計合同特別チーム(以下、特別チーム)参画メンバーを介した各社・機関内の情報展開はもちろん、J-Fusion(一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会)、青森県ITER計画推進会議や六ヶ所村産業協議会などの青森県内ステークホルダー、各種学協会への開催案内配信を精力的に行った結果、多様な業種に亘る産業界を中心として、100名超(うち、核融合関連のイベントに初めて参加する方が40名程度)が参加するスクールとなりました。

写真1. 開会式および基調講演終了後の集合写真

 開会式では、青森県環境エネルギー部の山下伸一次長にご来臨賜り、宮下宗一郎青森県知事のご挨拶をご代読いただきました。青森県民を代表して本スクールの青森での開催を歓迎していただき、核融合研究への青森県からの大きなご支援を改めて感じる機会となりました。

 原型炉設計に関する先端的研究成果等の報告や議論は様々な機会で行われていますが、新規参入の皆様にとっては障壁が高いと思われます。そこで、本スクールでは、基礎的内容の講義となるように心掛けることで、参入意欲の喚起、原型炉設計全体における各社・各人の得意・関心分野の位置づけや全体の取り組みとの関連(⇒統合イノベーション)などを俯瞰的に把握していただきたいという意図で、下記のようなプログラム構成、内容としました。

  • 基調講演(多田栄介 ITER/QST名誉フェロー):核融合研究の世界的進展と日本の研究・産業競争力の高さ、大規模プロジェクトにおけるマネジメントの重要性(特に、多極によって構成されているITER機構におけるご経験を踏まえて)、内閣府BRIDGE標準活用加速化支援事業「フュージョンエネルギーシステムに関する国際標準化」のプログラムディレクターとしての牽引
  • 原型炉設計全般に関する講演(坂本宜照 特別チームリーダー(QST六ヶ所研)):特別チームの活動や参画の拡がり、原型炉建設に向けた最近の急速な展開などを踏まえた産業界への大きな期待
  • 原型炉設計研究の拠点でもあるQST六ヶ所研の施設見学(QST六ヶ所研、NIFS六ヶ所研究センターの紹介も含む)
  • 原型炉設計を題材とした構成機器やそれらに求められる性能、現在からのギャップ・研究課題などを網羅した基礎的内容の講義群(全9講義:ブランケット、ダイバータ、加熱、超伝導コイル、燃料システム、炉構造・遠隔保守、計測・制御、安全性、サイト。特別チームにおける各担当リーダーや各課題を担当するQST研究者、および、新むつ小川原株式会社の方に講師を務めていただきました。それぞれ質疑込みで20分という短時間ではありましたが、集中力が途切れずに全体を俯瞰することができてよかった、というアンケート結果もありました。)
  • 修了試験
写真2. 基調講演風景

 スクールの早い段階で、参加者どうしの親近感を増す試みとして、初日にランチョン自己紹介を実施しました。時間も限られていたため、所属と名前のみとなってしまった点は残念でしたが、多様な業種からの参画を参加者全員で認識・共有する機会となりました。また、講演や講義資料の冒頭に自己紹介のページを入れていただくことで親近感の醸成に心がけた結果、出身地や趣味などの話題でも参加者と交流されている様子もありました。

 また、書き込みが容易となるように、可能な範囲で講義資料を印刷配布したところ、実際、講義中に熱心にメモを書き込んだり、ページを戻って見直したりしている参加者が多く見られました。講演・講義後の質疑応答の時間も、質問がとぎれることなく続きました。コーヒーブレイクの時間も長め(とは言え、30分程度でしたが)に確保し、講師陣との交流や参加者間のネットワーキングが進むように配慮しました。修了試験は資料の閲覧可としましたが、多くの講義資料を見返したり、確認したりする姿もあり、スクール全体の振り返りにも役立ったものと思います。

 QST六ヶ所研見学ツアーには90名近くの方が参加されました。3班に分かれて、スーパーコンピュータ、IFMIF原型加速器(IFMIF(イフミフ):国際核融合材料照射施設)遠隔実験室、原型炉R&D棟、ブランケット工学試験棟の研究設備群を見学しました。核融合の最先端研究開発現場をじかに見ることができたともに、研究者との質疑がとても有意義であったというアンケート結果が多くありました。見学風景とともに原型炉スクールを紹介する記事が地元新聞誌にも掲載されました。

写真3. QST六ヶ所研見学ツアーの様子(スーパーコンピュータ見学時)

 プログラム構成や実施上の様々な工夫により、閉会時挨拶(竹永秀信QST六ヶ所研所長(当時))で述べられたように、スクール名にあります「日本の核融合原型炉に触れる」を体現した機会となりました。

 末筆となりましたが、この度の原型炉スクールの開催にあたり、開催実行委員会、NIFSスクーリング・ネットワーキング(SN)専門部会、QST六ヶ所研(見学ツアー会場設営、見学対応など)ほか多くの皆様から多大なご支援、ご協力を賜りました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

(原型炉スクール開催実行委員長/六ヶ所研究センター長、可知化センシングユニット教授)