2026年 新年のあいさつ

所長 山田弘司


 明けましておめでとうございます。新春を寿ぎ、皆様の弥栄をお祈り申し上げます。

 核融合・フュージョンエネルギーへの期待が世界的に大いに高まり、核融合科学研究所(NIFS)を取り巻く社会情勢が劇的に変化しています。核融合研究開発は、これまでの基礎学術研究と技術開発研究を並行させるという我が国独自の戦略的取組に加えて、産業化・事業化という新たな見方、価値観を重要視する新しい時代を迎えています。ここでご注意いただきたいことは、ともすれば、「研究期間は終了した」あるいは「研究から産業へ移行」という言説を聞き、目にすることがしばしばあることです。核融合研究には70年の歴史がありますが、未だ成熟した科学技術分野とは言えません。社会に福利をもたらしている科学技術を見れば、基礎学術と技術開発、それに産業化・事業化が束になることによってイノベーションがもたらされていることは明らかです。イノベーションとは組み合わせであり、その基盤となる発見・発明をもたらすものが基礎学術研究です。

 内閣府より発出された「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が、昨年6月に改定され、国家戦略として2030年代の発電実証を目指すとされました。この挑戦的な目標の設定に至る技術成熟度の高まりはあるものの、実に多くのイノベーションなくして目標の達成に立ちはだかる難問群を解決することはできません。さらに発電実証を行う第1号機から、経済性や安全性を高めていくことが核融合エネルギーの社会実装には必要であり、そこでは科学的知見に基づいた指導原理や予見性をもたらす基礎学術研究の役割は増すことあっても、役目を終えることはありえません。このことは核融合科学に携わるプロたる専門家の責任がこれまで以上に真摯に求められるところでもあります。

 また、NIFSにあっては創設以来の中核プロジェクトであった大型ヘリカル装置(LHD)実験を昨年12月25日に完遂しました。これまで、賜りましたご支援に、厚く御礼申しあげます。この27年余の運用によって20万回余の超高温プラズマ放電を共同研究に供し、これまで世界中の誰も見たことがない、手にしたことがないデータを生み出しました。その研究成果と資源をポストLHD計画に引継ぎ、発展させていく変革の時期ともなります。このため、大学共同利用機関としての在り方から問い、核融合科学の学際的展開によって分野の拡大を図るための組織改革を先駆けて行ったところです。この改革を背景として、「超高温プラズマの「ミクロ集団現象」を中核とした核融合科学の学術研究基盤計画」が文部科学省の学術研究の大型プロジェクトの一つとして認められ、着手する運びです。また、スタートアップ企業へも供用できるプラットフォームの充実も求められるところです。NIFSはこれらの活動を「フュージョンサイエンスヒルズ構想」という大きな構図に位置づけ、世界的な研究拠点たる整備を進めてまいります。さらに、誤解を恐れず申し上げれば、NIFSは核融合エネルギーの実現さえできれば良しとする組織ではないと、私は考えています。例えば、初夢のようですが、核融合プラズマを支配する「ミクロ集団現象」を理解できる新しい統計力学を生み出すことができれば、多数の要素が協働して起こす自然や社会の成り立ちの理解に貢献するものとなります。

 2026年はNIFSの様々な試みを新たな時代に相応しい今後の成長に繋げていく大事な段階となります。理念と戦略の重要性は言うまでもありませんが、携わる人々が共感を持った関係を築き、やりがいと喜びを感じることが最も重要と考えています。

 新たな時代をあれかこれかの二者択一ではなく、あれもこれもと欲張って切り開くべく邁進するNIFSに対して、本年も、熱い眼差しを向けていただけることを心よりお願い申し上げます。