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私が核融合科学研究所(NIFS)の助手として採用されたのは、飯吉厚夫先生を初代所長としてNIFSが発足してから1年1ヶ月後の1990年6月でした。それから、2026年3月に定年退官するまでの長きにわたり、NIFSの職員の皆様や他大学・研究機関の多くの共同研究者の皆様には、たいへんお世話になりました。ここに心より感謝申し上げます。NIFSに採用される前は、京都大学ヘリオトロン核融合研究センターにおいて、学生・ポスドク・助手時代を過ごしました。思えば、核融合プラズマの研究を始めてから、すでに40年以上が経過したことになります。大学4年の時は、後にNIFSにも在籍された武藤敬先生のヘリオトロンD装置におけるイオンサイクロトロン加熱実験のお手伝いをして、プラズマ実験の大変さを実感しました。大学院では、若谷誠宏先生の指導の下、磁気流体力学(MHD)モデルに有限ラーマー半径効果や二流体効果等を取り入れた拡張流体モデルを用いて、ヘリカル型プラズマの交換型不安定性、乱流輸送、背景シアー電場による安定化効果等の理論研究を行い、博士号を取得しました。若谷先生は、MHDをはじめとするプラズマ理論研究で著名であるとともに、とても温厚かつ指導熱心な教育者でもあり、沢山の学生を育てられました。現在も、多くの門下生が核融合科学研究所、京都大学、量子科学技術研究開発機構などで活躍しています。早逝されたことが、今なお惜しまれてなりません。若谷先生のご縁により、長谷川-三間方程式や長谷川-若谷方程式で著名な長谷川晃先生との共同研究の機会にも恵まれました。博士課程の研究成果の一つとして、抵抗性ドリフト交換型不安定に関する主著論文を1988年にPhysics of Fluids誌において両先生との連名で発表することができました。この論文は、ドリフト波乱流によるゾーナルフローの生成と乱流輸送の抑制を示すもので、1987年にPhysical Review Letters誌に出版された長谷川-若谷論文とともに、その後に隆盛となり現在も活発に行われているゾーナルフロー研究の先駆けとなるものでした。
NIFSに着任してまもなく、日米核融合理論共同研究組織(JIFT)の派遣プログラムで、テキサス大学核融合理論研究所(IFS)やプリンストンプラズマ物理研究所(PPPL)に、それぞれ約3か月間滞在する機会を得ました。世界各国から集まった研究者との交流は大きな刺激となり、その後、ドリフト波乱流研究の第一人者であるテキサス大学のWendell Horton 先生と多くの共同研究を行うことができました。1990年代半ば以降は、プラズマ運動論に基づく新古典輸送および乱流輸送の研究に取り組み、大型ヘリカル装置(LHD)のような軸対称性を持たない一般的なトーラスプラズマにおける乱流・新古典輸送両方を含めた総合的な運動論的定式化(1996年)、高速トロイダルフローの存在する軸対称トーラスプラズマにおける乱流・新古典輸送の理論(1998年)、さらに微視的乱流輸送の基本モデルであるジャイロ運動論の場の理論による定式化(2000年)など、多数引用される研究成果を上げることができました。2002年にPhysics of Plasmas誌に西村伸さん(現・構造形成・持続性ユニット所属)と発表した論文では、ヘリカル系プラズマにおける新古典拡散・粘性・電流の計算手法を提示しました。この研究成果は、米国の新古典輸送計算コードPENTAの基本原理として採用され、先進的な準対称磁場配位の新古典輸送解析等に広く用いられています。
2000年代半ば以降は、渡邉智彦さん(現・名古屋大学)によるジャイロ運動論的シミュレーションコードGKVの開発に協力し、LHDにおけるイオン温度勾配(ITG)モード等の微視的不安定性、乱流輸送やゾーナルフローに関する多くの共著論文を出版することができました。特に、乱流輸送の抑制をもたらす物理機構として長年にわたり注目されているゾーナルフローの残留振幅や測地的音響モード(GAM)の減衰振動過程に対して、粒子軌道の有限幅、ヘリカル磁場成分や背景径方向電場の効果を取り入れた理論公式を2006年に発表しました。その妥当性は、GKVコードを始め、多くのジャイロ運動論的シミュレーションコードによって検証・確認されました。LHD の磁気軸内寄せ配位の実験では、標準配位に比べて不安定性をもたらす磁気丘が強くなるにもかかわらず、新古典輸送のみならず乱流輸送も低減することが、現在のNIFS所長の山田弘司先生らによって示されていました。我々の理論シミュレーション研究により、磁気軸内寄せ配位においてゾーナルフローの生成と乱流輸送の抑制が強まることが示され(図1参照)、2008年の関連論文は、プラズマ・核融合学会論文賞を受賞しました。これらの成果は、ゾーナルフロー生成によるプラズマ閉じ込め改善を目指した磁場配位最適化研究の先駆けとなりました。また、2009年に発表した衝突モデル演算子は、現在も国内外の主要なジャイロ運動論的シミュレーションコードにおいて使用されています。その後も、仲田資季さん(現・駒澤大学)や沼波政倫さん(現・メタ階層ダイナミクスユニット)をはじめとする多くの若手研究者と、ジャイロ運動論に基づく理論シミュレーション共同研究を実施しました。これらの研究を通じて、2017年から2022年に実施されたLHD重水素実験における同位体効果の予測と検証等を行うとともに、2017年に堀内利得先生から引き継ぎ2023年まで私が総主幹を務めた数値実験炉研究プロジェクトにおいて、多くの成果創出に貢献することができました。
振り返りますと、恩師や先輩諸先生、多くの同僚・共同研究者、そしてNIFS職員の皆様との出会いに恵まれ、長年にわたり核融合プラズマ理論研究に携わることができたことは、誠に幸運であったと感じています。改めて深く感謝申し上げます。現在も、核融合プラズマや他の理論研究への興味は衰えておらず、最近発表したランダウ減衰・シュレディンガー方程式・ゆらぎの定理、および乱流熱交換に関する理論の拡張や核融合プラズマへの応用に関する研究を、定年退官後もしばらくはNIFSにて継続する予定です。今後とも、どこかでお目にかかる機会がございましたら、どうぞよろしくお願い申し上げます。
(複合大域シミュレーションユニット 教授)

