LHDとともに  

今川信作


 2025年12月25日をもって大型ヘリカル装置(LHD)の実験が完遂しました。1998年1月の試運転開始から28年間です。当初10年計画で実験が開始されましたので、これほど長く運転を続けることになろうとは思っていませんでした。プラズマ性能の高い目標値を達成するためには実験条件の探索と加熱装置などの増強が必要であったことも背景にありますが、なにより世界に注目される研究成果を上げ続けたことが実験の継続を認められてきた直接的な要因と思います。私が1991年4月に研究所に着任したのはLHDの建設を担当するためでしたので、運転終了が定年退職と重なることには感慨深いものを感じます。私の学生時代には「核融合はあと30年で実現する」と真面目に語られており、当時は日本にも独自の実験炉が建設される予定でした。核融合発電所の設計と建設に関わることができると思い、進路は重電メーカーを選択しました。工場実習で臨界プラズマ試験装置JT-60の真空容器のアルコール洗浄やトロイダル磁場コイルのボルト締めを体験したことを憶えています。入社4年目にコンパクトヘリカルシステム(CHS)の基本設計から試運転までを担当し、多くのことを学びました。この時の人の縁があって、核融合科学研究所に着任することとなりました。

 超伝導核融合実験装置の一覧を表1に示します。LHDの設計当時、直径1 mm程度の数百本の超伝導線が多重に撚られたケーブルを金属管に挿入するケーブル・イン・コンジット導体(CICC)の開発が進行中で、ポロイダルコイルは世界で最初にCICCを実用化したコイルです。一方、ヘリカルコイルは成形のやり易さを優先して浸漬冷却方式の複合導体が採用され、この種の核融合マグネットとしては最後のものとなっており、1990年頃の超伝導技術を象徴する装置といえます。LHDの設計作業においては、最初に全体組立方法の策定を担当しました。ヘリカルコイルはそれを囲む円環状の支持構造物から支えられる構造ですが、その組立方法を決めあぐねていたところ、ヘリカルコイル容器(シェルアーム)の50 cm×50 cmの空間に人が入って接続部を溶接する方法が企業側から提案され、実物大の試作を行って方法が確定しました。LHDの設計において最も重要な提案の一つであったと思います。主な担当機器はヘリカルコイルと電磁力支持構造物でした。全長36 kmのヘリカルコイル導体は1年半にわたる昼夜2交代で巻線されました。金属片の混入を防ぐため、図1に示すように本体室内に防塵室を組み立て、防塵服を着用しての作業でした。当時の防塵服は熱がこもるため体調管理が重要な留意点でした。開始時の巻線速度は目標の半分にも至らず、改善策をあれこれと議論しました。決定打はなかったように思いますが、中盤から加速し、目標工程を達成することができました。結局は、作業者の方々の習熟と熱意さらにチームワークが最大の要因であったと思います。私にできたことは、現場作業を滞らせないように研究所側の決断を早くすることと企業側の設計進捗を督促することくらいでしたので、作業者の方々には本当に感謝しています。巻線工程が遅延しなかったことが、LHDの計画通りの完成を導いたと思います。

 LHD完成後は実験炉ITERや原型炉の開発に関わりたいと思っていましたが、LHDヘリカルコイルの性能が不足していることが分かり、その原因究明と対策に10年を費やすこととなりました。冷却温度を1度ほど低下させる改造を実施したのですが、モデルコイルで得られたほどの改善効果は得られず、磁場強度は設計定格値の90%までに制限されることになりました。超伝導コイルの冷却安定性は発熱と冷却で決まる比較的単純な問題ですが、過渡的あるいは局所的な因子が無視できなくなると予測が難しいという現実を思い知りました。ただ、設計の90%以下の運転であったことが、28年間の安定した運転を実現できた要因の一つであったと思っています。

 研究所では、来年度からは新たな学術研究基盤事業が開始されます。CHSをCHDにアップグレードする整備と新規の工学設備の導入が始まっており、さらに新たなプラズマ実験装置の構想も進展しています。国際的には、米国のベンチャー企業を筆頭として核融合発電の早期実現を謳う民間企業が何社も現れて賑やかになっていますが、見かけの情報に惑わされずに将来に繋がる新しい技術や知識を鋭く分別することが肝要です。研究所の皆様には、大学共同利用機関の役割を果たすべく、着実にかつ果敢に共同研究を推し進めていくことを期待しております。

 最後になりましたが、無事に定年を迎えることができますのは、関わっていただいた皆様のおかげです。この場をお借りして、ご支援頂いたことに感謝申し上げます。ありがとうございました。

表1 超伝導核融合実験装置(Bmax:コイル最大磁場,WB:蓄積磁気エネルギー)
装置名完成年Bmax(T)WB(GJ)特徴
T-71977ソ連5.00.02世界最初の超伝導トカマク、NbTi複合導体
MFTF-B1979米国7.751.0浸漬冷却のNbTi複合導体とNb3Sn複合導体
T-151980ソ連9.40.38強制冷却のNb3Sn複合導体
TRIAM-1M1986日本10.80.076浸漬冷却のNb3Sn複合導体
Tore Supra1988フランス9.00.6超流動ヘリウム冷却NbTi複合導体
LHD1998日本6.90.9浸漬冷却NbTi複合導体とNbTi CICC
EAST2006中国5.80.30NbTi CICC
KSTAR2008韓国7.50.47Nb3Sn CICCとNbTi CICC
SST-12012インド5.10.056NbTiCICC
W7-X2015ドイツ6.00.62NbTi CICC、アルミ合金ジャケット
JT-60SA2019日本、EU5.651.1Nb3Sn CICCとNbTi CICC
ITER2036?7カ国11.8(TF)41Nb3Sn CICCとNbTi CICC
図1 LHDの現地建設初期の本体室の作業風景

(プラットフォーム企画室工学系施設部門長/超伝導・低温工学ユニット 教授)