電子密度制御が切り拓く、長時間プラズマ放電への道  

長原一樹

プラズマを安定に保つ鍵となる「電子密度」

 核融合プラズマの状態を語るうえで欠かすことのできない重要な指標の一つに「電子密度」があります。これは、プラズマ中の単位体積あたりにどれくらいの数の電子があるかを示す値です。将来の核融合炉においては、電子密度が高すぎるとプラズマが不安定になり、低すぎると核融合反応が十分に進みません。したがって、電子密度を正確に制御することが、核融合実現への重要な条件なのです。

 長時間のプラズマ放電を得意とする大型ヘリカル装置(LHD)において、その特長を活かした核融合プラズマ研究を進めるためにも、電子密度を狙いどおりに制御する技術が強く求められてきました。

「ガスパフ」~シンプルだが奥深い密度制御法~

 核融合プラズマ実験では、燃料となるガスの注入量を調整することで電子密度を制御します。この方法を「ガスパフ」と呼びます。ガスパフ装置は、主にガスボンベ、配管、バルブで構成された比較的シンプルな装置です。しかし、狙いどおりの電子密度を実現するためには、注入するガス量を精密に制御する必要があります。ガスパフ装置では、印加する電圧に応じて開度が変化する「ピエゾバルブ」を用いて、電圧を適切に制御することで、注入するガス量を調整します。この制御を実現するために、専用の制御装置を開発してきました。

 ガスパフには、あらかじめ決めた量のガスを注入する手動制御と、電子密度の実測値と目標電子密度(以下、目標値)の差に基づいてガス量を自動で調節する自動制御があります。筆者はLHDにおいて、目標値を高精度且つ迅速に得られる自動電子密度制御を実現しました。以下では、その方法及び得られた結果について紹介します。

 LHDでは、従来、「比例制御」によって電子密度制御が行われていました。プラズマ中の粒子は時間とともに少しずつ失われていくため、密度を一定に保つにはガスを継続的に供給する必要があります。比例制御では、その時点の電子密度と目標値の差に応じて、注入するガス量を調整します。しかし、この方法では目標値との差があるときにのみガス量が増えるため、わずかなズレが残った状態でバランスが取れてしまいます。そのため、目標の電子密度を得るには数回のプラズマ放電が必要でした。そこで、筆者は、実験効率の向上及び電子密度制御の高精度化を目的として、新たに「比例積分制御」を導入しました。比例積分制御は、比例制御に積分制御を組み合わせた手法です。積分制御は、これまでに生じたズレを累積し、その影響をピエゾバルブに印加する電圧に反映させることで、比例制御で生じるズレを打ち消します。この手法により、目標値とのズレを小さく抑えることが可能となります(図1)。

図 1 比例制御と比例積分制御の概念図。比例制御では目標値とのズレが残るのに対し、比例積分制御ではズレを小さく抑えることができる。

 比例積分制御を実現するため、筆者は新たに制御装置を構築し、段階的な調整を行いました。まず、これまでの運転経験から、「電子密度が正しく制御された際の理想的な電圧波形」を整理・把握したうえで、模擬的な電子密度信号を用いて、望ましい電圧波形を再現できる比例制御と積分制御の制御パラメータの初期値を設定しました。その後、この初期値をもとに、実際のプラズマ実験において制御パラメータの調整を進めました。図2(a)の青い点線のように、初期設定では電子密度が大きく揺れましたが、比例制御と積分制御を適切に調整することで、図2(a)の赤線のように揺れはほとんど見られなくなりました。さらに、積分制御を微調整することで電子密度の目標値への到達速度も大きく改善しました(図2(b))。最終的には、図2(c)のように目標値を大きく超えることなく、滑らかに、そして安定して目標値に収束する制御を実現することができました。なお、ピエゾバルブに印加する電圧は、制御装置が出力するガス量制御電圧を、専用の増幅器で増幅したものです。図2(c)の青線は、制御装置の出力であるガス量制御電圧を示しています。

図 2 比例積分制御のパラメータ調整による電子密度制御の改善

 次に、完成した比例積分制御が様々な実験条件でも有効であるかを検証しました。その結果、磁場の強さ、磁気軸位置、加熱方法を変えても、目標の電子密度に“ほぼ1回”で到達できることを確認しました(図3)。この成果により、研究者は求める条件のプラズマ電子密度を迅速に得ることが可能となり、実験効率が飛躍的に向上しました。

図 3 様々な条件における比例積分制御の有効性の確認

 比例積分制御の導入により、電子密度を一定値に保つだけでなく、実験ニーズに応じた多様な電子密度制御も可能となりました。たとえば、時間とともに密度を上げるランプアップ制御、周期的な変動を繰り返す正弦波制御、放電中における目標値を切り替える制御、といった柔軟な電子密度制御が可能です。さらに、100秒にも及ぶ長時間放電においても、安定した電子密度制御に成功しました(図4)。

図 4 比例積分制御による様々な電子密度制御

核融合科学研究を支える技術職員

 LHDにおける核融合プラズマ研究は、研究者だけでなく、実験装置の設計・製作・改良・運転を担う技術職員によっても支えられてきました。プラズマ実験では、実験装置が安定して動作することに加え、実験の進展に応じて実験装置の設定を柔軟に調整できることが肝要です。そのため、実験装置を実際に運転し、その挙動をよく知る技術職員だからこそ、装置の改良や制御方法の工夫へと繋げることができ、研究に多々貢献することができます。

 ここで紹介したガスパフ制御の改良も、その一例です。今回構築した制御装置は、研究者の要望に応じて制御ロジックを柔軟に追加・変更できるため、電子密度の制御にとどまらず、新しい実験に合わせた機能拡張が可能です。例えば、プラズマからの発光強度を指標に、ネオンなどのガスの注入量を制御することで、プラズマがLHD内壁に与える熱負荷を抑える運転にも応用展開しています。このように、研究現場からの要望に応じて制御方法を組み変えることで、様々な実験研究を支援しています。

 今後も私達技術職員は、これまで培ってきた、現場課題の抽出から設計・製作・検証に至る一連の知見に基づいて創意工夫を重ね、研究成果に直結する価値を創出し続けることで、核融合科学研究を力強く支えてまいります。

(技術部計測分析技術課主任技術員)