水素の氷でプラズマを変える
―固体水素ペレットが開く新しいプラズマ制御―

本島厳1、長﨑百伸2、稲垣滋2、門信一郎3、小林進二3、金史良4、稲垣秦一郎4

 将来の核融合炉では、1億度を超える高温のプラズマに燃料となる水素を供給しながら、その密度や状態を適切に制御する必要があります。その有力な方法の一つが、固体水素ペレットの入射です。固体水素ペレットとは、水素を極低温で凍らせて作った小さな氷の粒です。この粒をプラズマに高速で打ち込むことで、水素ガスをプラズマ表面から入れる場合よりも、プラズマの奥深くまで多くの燃料を届けることができます。

 核融合科学研究所と京都大学は、京都大学エネルギー理工学研究所の高温プラズマ実験装置「ヘリオトロンJ」を対象として、固体水素ペレットの開発と、それを用いたプラズマ実験を長年にわたって進めてきました。ヘリオトロンJのような中型の装置では、大型装置で使われるものより小さく、さらにプラズマを通り抜けない適度な速度のペレットが必要です。しかし、小さなペレットを壊さずに、低い速度で安定して発射することは容易ではありません。そこで私たちは、ペレットを加速する入射管の出口を、テーパー状に広げる独自の構造を開発しました。加速に使うヘリウムガスの力を出口付近で弱めることで、小さなペレットが過剰に加速されるのを防ぎます。実験では、大きさ約1mmほどの固体水素ペレットを、秒速約260 mで発射することに成功しました。秒速260 mは時速にすると約940 kmです。一見すると非常に速い速度ですが、ペレット入射装置としては比較的低速であり、中型のプラズマに適した条件です。

 開発した装置をヘリオトロンJに設置し、実際のプラズマへペレットを入射する実験も進めました(図1)。その結果、1個のペレットを入射するだけでプラズマの密度が大幅に上昇し、水素ガスをプラズマ表面から入れた場合よりも、高密度の状態でプラズマ内部に多くのエネルギーを蓄えられることが分かりました。また、ペレットがプラズマのどこまで入り、どこに水素を供給したのかを、プラズマから出る光を多くの方向から測る光計測装置で調べました。その結果、ペレットはプラズマの中心付近まで到達し、水素の多くが中心部に供給されていることが確認されました。ペレット入射後には、中心部の密度が特に高く、周辺部では比較的低く保たれた密度分布も形成されました。さらに、ペレットが溶けた後に粒子がプラズマの中心方向へ運ばれる「粒子ピンチ」と呼ばれる現象も観測されています。これらの成果によって、固体水素ペレットが、単にプラズマ全体の密度を上げるだけでなく、中心部へ効率よく燃料を届ける方法であることが示されました。

図1 ヘリオトロンJに設置した固体水素ペレット入射装置

 しかし、この時点では、ペレット入射がプラズマ全体の状態にどのような変化をもたらすのかまでは、明らかになっていませんでした。こうした装置開発と高密度プラズマ実験を基盤として、私たちはさらに、ペレット入射後にプラズマ全体がどのように変化するのかを詳しく調べました。高温で密度の低いプラズマに固体水素ペレットを入射すると、ペレットはプラズマの中で急速に溶けて広がり、大量の水素を供給します。その結果、プラズマの密度は短時間で約10倍に上昇しました。さらに興味深いことに、変化したのは密度だけではありませんでした。ペレットが溶けて生じた冷たいプラズマは、いったん中心付近に集まってプラズマ全体を収縮させ、その後、再び加熱されながら膨張しました。この過程で、温度や密度の分布だけでなく、プラズマを取り囲む磁場の構造も変化しました。最終的に、ペレット入射前よりも多くのエネルギーを保持できる、閉じ込め特性の良い新しい状態が形成されました(図2)。同じ密度まで水素ガスをプラズマ表面からゆっくり入れた場合には、この状態は現れませんでした。これは、ペレットが単に燃料を供給するだけでなく、プラズマに急激な変化を与え、その内部構造を組み替える「スイッチ」として働いた可能性を示しています。高温の金属を急冷することで性質を変える「焼入れ」にも似た現象です。

 小さな固体水素ペレットを作り、適切な速度で入射する装置を開発することから始まった共同研究は、中心部への燃料供給、高密度プラズマの形成、そしてプラズマの状態そのものを変える研究へと発展してきました。今後は、なぜ閉じ込め特性の良い状態へ移行したのか、その状態を長時間維持できるのかを明らかにする必要があります。核融合科学研究所と京都大学は、装置開発とプラズマ物理の両面から、固体水素ペレットを用いた新しいプラズマ制御の研究を進めていきます。

図2 ペレット入射によってプラズマの温度・密度や磁力線構造が再編される様子

1プラズマ・複相間輸送ユニット 准教授、
2京都大学 エネルギー理工学研究所 教授、
3同准教授、
4同助教)