多くの方にご参加いただきありがとうございました!※講演動画とQ&A集をご覧ください

「持続可能な開発目標 SDGs」の中心的なテーマの一つに、自然と人間活動との調和があります。しかし、私たちにとって、自然は不確実性に満ちています。人の能力をはるかに超える莫大なエネルギー、身近な環境から宇宙へと連綿とつながってゆく広大な空間、そして宇宙から地上、生命、さらには原子核の中まで、いろいろなスケールの世界に現れる多様なモノたち。その筆舌に尽くしがたい自然の中で、私たちの未来をどのように考えればよいのか?このシンポジウムでは、地球環境、気象、宇宙、感染症など、様々な分野の専門家が集まり、自然の中の不確実性について科学の観点から考えます


プログラム

  • 開会

    機構長あいさつ
    川合 眞紀(自然科学研究機構 機構長)

  • 講演

    「海洋科学における不確実性-自然の観測とその解釈-」
    増田 周平 氏(海洋研究開発機構 地球環境部門 部門長)

  • 「気候変動予測の不確実性と異常気象の考え方」
    今田 由紀子 氏(気象庁気象研究所 気候・環境研究部 主任研究官)

  • 「パンデミックの不確実性と創薬」
    諫田 泰成 氏(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部 部長)

  • 「太陽フレア(スーパーフレア)と宇宙天気予報」
    柴田 一成 氏(同志社大学 特別客員教授 / 京都大学 名誉教授)

  • 「高温プラズマの不確実性:突発現象のトリガー」
    居田 克巳 氏(核融合科学研究所 ヘリカル研究部 教授)

  • パネルディスカッション

    司会: 坂本 貴和子(自然科学研究機構 研究力強化推進本部 特任准教授)
    パネリスト: 増田 周平 氏 ・ 今田 由紀子 氏 ・ 諫田 泰成 氏 ・ 柴田 一成 氏 ・ 居田 克巳 氏

  • 閉会

    副機構長あいさつ
    吉田 善章(自然科学研究機構 副機構長 / 核融合科学研究所 所長)

アクセス

会場情報

東京大学 大講堂(安田講堂)
〒113-8654 東京都文京区本郷7-3-1 本郷キャンパス
事前申込み不要


ライブ配信

Youtube およびニコニコ動画にてライブ配信します。事前申込み不要です。

お問い合わせ

  • 第35回 自然科学研究機構シンポジウム 事務局
  • 自然科学研究機構 核融合科学研究所 対外協力係
  • 電話: 0572-58-2222 (平日 8:30-17:15)
  • E-mail: sympo35(at)nifs.ac.jp
  • ※上記の (at) は @ に置き換えてください

第35回 自然科学研究機構シンポジウム Q&A集

第35回自然科学研究機構シンポジウム「自然の中に潜む不確実性とは何か?~科学の目で見た持続可能性~」にて、視聴者の皆様より寄せられた質問に、講演者の先生方が答えてくれました。


Q&A 増田周平先生「海洋科学における不確実性ー自然の観測とその解釈ー」

1. 次世代の若いみなさんへのメッセージをお願いします。

現在はわたしが学生だった頃に比べ、ネットやSNSから入ってくる情報が多く、すぐに知識を得られるという良い社会になりました。一方で、自分で判断したり工夫したりする機会が減っているような気がします。自分で考えて行動することにはときに失敗を伴いますので、そういう意味では効率的な生活ができているのかもしれませんが日常でのワクワク感は少なくなってるのかもしれません。生活の中には失敗を伴う挑戦の中に得難い充実感が隠れていると思います。どうぞいろいろな局面で自分のステージに合わせた挑戦をしてみてください。そのなかで自然科学の解明に挑戦してくれる方が現れ、そこでしか味わえない充実感を堪能していただければ頂上極まりありません。

 

2. いま、海水温の上昇と海水の酸性化が同時進行しているようです。海水温が上がると、二酸化炭素が吐き出されて、酸性度が減少するはずですか、この予測は、どこかで間違っているのでしょうか?

海洋の酸性化を左右する原因にはいろいろな要素があります。化学反応の速度、海水の成分、関与する生物種などです。ご指摘の通り、それらは水温をはじめとする海水の特性にも依存しています。現在話題になっている酸性化の主な原因は、大気中の二酸化炭素が増え、海面からの取り込み量が増えることによる、成分の変化だと考えられています。海水温の上昇と海水の酸性化は同じ遠因(二酸化炭素の増加)により同時に進行していると理解しています。

 

3. 海底水温が上がったのは、水温の垂直伝播は時間がかかるが、海水温の水平分布の高温域が広がることで、海底水温も上がると言う理解でよろしいでしょうか?お風呂でも、追い炊きをすると実感するところです。

感覚的にはご理解に近いと思われます。実際には水平方向の情報伝搬にはお風呂のような温水の流れ込み(太平洋の例では南極沿岸表層から底層への水の供給)に加え、水や熱の直接的な輸送を伴わない海洋中の波が関与していることが指摘されています。余談ですが、水温の鉛直伝搬には拡散(混合)が効いてきます。海洋中の鉛直混合は海洋学のフロンティアで、今後、観測の充実が必要なところです。

 

4. ラニーニャは終わったと、プレスリリースが先日ありました。

そのような気象庁さんの発表がありました。夏にかけてエルニーニョになる可能性が半分くらいある(50%)とのことですが、この確率計算にも講演で出た「アンサンブル予報」が使われています。メカニズムの理解が比較的進んでいるエルニーニョでもまだまだ予測に改善の余地があり、「自然界の不確実性」に敬意を表せざるを得ません。

 

5. 海・空・薬・おひさま・プラズマにまたがる「カオス」とか「突発現象」を分野をこえて研究している人はいるのですか?

おひさまは海・空の運動の源の大部分を占めています。おひさまの微細な変化が非線形相互作用などにより大きな気候変動を引き起こし、カオス的なふるまいをしているとみる興味深い研究は昔から盛んにおこなわれています。オープンデータポリシーの浸透と計算機科学の発展により、いろいろな分野のデータを誰でも使えるようになってきましたので、今後ますます分野横断(あるいはそもそも分野をもたない専門家外の方による)研究は発展していくと思います。

 

6. もし、観測が正確に行われれば、その計算システムのモデルで、厳密な予測が出来るものなのですか。計算モデルは、完全なものですか。お話しでは、観測の精度でカオスになるような話しでしたが、どうでしょうか。

計算モデルは完全なものからかけ離れています。我々の知りうる知識の中での仮想的な計算機実験をしているに過ぎません。ですので、完ぺきな観測があっても厳密な予測はできないと考えます。我々の知りうる知識の中に「カオス」的な相互作用が含まれているので、観測精度(スタートラインの少しの差)でそのようなふるまいを再現することはできています。曖昧さを含む観測データと曖昧さを含む数値モデルからなんとか自然の摂理の一端を理解する、あるいは予測することを志しているところに地球科学の醍醐味があるとも言えます。

 

7. 「不確実性の幅」の解釈の際、 解釈のタイプはおそらくは次の2つに大別できると思います。
  1.不確実性の幅の中のどこかに真の値がある(どこにあるかは誰にもわからない)
  2.不確実性の幅の中から任意に(主観的に)「真」の値を選び取る。
  1.は、例えば繰り返し実験を行う際に一般的に採用される解釈で、正規分布を仮定して±2σを不確実性の幅とするものです。 一方で、2.は、個人や団体の都合に影響を受けて、恣意的に最大値を採用したり最小値を採用したりすることが可能となる解釈です。 「感染症の拡大を防ぐには他人との接触を7割から8割以上減らす必要があります」と、不確実性の幅が示された場合、医療関係者は本音では「願わくば8割は減らして欲しい」と思うだろうし、 経済的影響を心配する人は「7割でお願い!」と思うことでしょう。
  1.と解釈するか、2.と解釈するかで、 生じる結果がかなり異なることが予想されます。 真の値は一般に、不確実性の幅の真ん中付近にあると考えられるからです。わかりやすさを優先して 不確実性の幅の中央をピンポイントに「真の値」として示すとそれは科学的には妥当ではないだろうし、「不確実性の幅」をそのまま示して「この中のどこかに真の値がある」と説明すると「わかりづらい」、「曖昧すぎて判断がつかない」 という反応が返って来ることでしょう。
  そこで質問なのですが、 一般的に、一般の人々が「不確実性の幅」をどう捉えるのが好ましいのか、また、その好ましい解釈の仕方を如何にして伝えるか、ということに関して、各先生方の考えるところをお示しくださると幸いです。どうぞ、よろしくお願いいたします。

1は量子論的な意味と、講演内容ではやや齟齬がありますが、ここでは2の対照として、エラーバーをそのまま示すか(1)、わかりやすさのため中央値や平均値(アンサンブル平均値)のみを開示するか(2)、という観点から回答いたします。
「一般の人々が「不確実性の幅」をどう捉えるのが好ましいのか」、これはケースによると考えます。例えば、台風予測などの場合には、可能性のある範囲を示すことが被害軽減の観点からは重要でしょうし、毎日の天気予報で最高気温20℃±1℃と表示するのもあまり意味がないでしょう。このように、一般論では語れないと考えます。
「その好ましい解釈の仕方を如何にして伝えるか」こちらは伝える側、伝えられる側両方に少しずつの歩み寄りが必要かと思います。その一つがこのような講演会かと思います。時間をとって参加していただけたことが、「あいまいさ」のイメージをつくっていただく機会になり、講演側は正確な情報を伝えられたか問い直し、次回の機会により分かりやすくするよう努力するということを続け、社会全体のリテラシーを向上させることが肝要かと思います。

 

  

Q&A 今田由紀子先生「気候変動予測の不確実性と異常気象の考え方」

1. 不確実性の要因「将来の人間活動のシナリオ」は、どの程度の規模をシミュレーションしているのか。また、どのようにシミュレーションしているのか。

社会経済の動向をシミュレーションすることができる「統合評価モデル」を用いて作成されています。統合評価モデルでは、人口の変化(出生率、死亡率、移民、都市化、教育水準など)、経済発展(国別所得分配、産業構造、雇用、貿易など)、人間開発(貧困、食糧安全保障、医療、格差など)、技術発展(R&D投資、インフラ、エネルギー技術など)、ライフスタイル(消費、栄養)、環境・天然資源(化石燃料や天然資料の消費、土地利用、農業生産、環境汚染、水利用など)、政策(国際協調、環境政策とその効果など)などの要素が考慮されており、例えば人口動向は人口モデル、GDPは経済モデル、といったように、各要素をコンポーネントモデルで計算した上で統合評価モデルに入力してシナリオが作成されます。

 

2. 3つの時間スケールでの予測を議論されていましたが、それらの結果の連続性は確認されているのでしょうか?つまり、短期的な予測と中期的な予測の結果がオーバーラップするところで一致するようにしているのかどうか、が気になります。

理想的には一致するようにすることは可能です。つまり、短期的な予測を数週間で打ち切らずに継続すれば季節予測も可能ですし、さらに延長すれば温暖化予測としても使うことができるはずです。しかし実際は、講演でもご説明した通り、それぞれの予測は異なるモデルを用いて異なる条件の下で実施しているので、オーバーラップする部分は完全には一致しません。なぜなら、時間スケールに応じて予測で重要となる条件が異なってきますので、無駄を省けるところは省いて、その分の計算資源を解像度を上げたり予測の頻度を増やしたりする方に回したいからです。例えば、季節スケールより長い時間スケールの予測では、海洋の変動が重要なので大気モデルと海洋モデルを組み合わせて用いますが、日々の天気予報では海洋の動きは静止しているとみなせるので、海洋モデルの計算は省いて、その分解像度を高くして予測精度を上げることを優先します。逆に言えば、省いても結果に大きく影響しないものを省いているので、比較の仕方を工夫すれば、それぞれの予測がオーバーラップする部分の計算結果は大きくは違わないはずです。

 

3. どのくらいの火山噴火や森林火災が起きた場合、境界値の変更をするのですか?過去の噴火例で示せますか?

20世紀に起こった火山噴火では、1963年のアグンサ山、1982年のエルチチョン山、1991年のピナツボ山の規模の噴火になると、地球全体の気温に影響を与えますので、境界値として与えるデータの中で考慮する必要があります。

 

4. 航空機やロケットの排気ガスも気候に影響しますか?

令和3年度の国土交通省の資料によると、日本国内では、我が国のCO2総排出量のうち、運輸部門は18.5%を占め、そのうち国内航空は運輸部門の5%を占めるそうです。運輸部門では自家用乗用車が排出量のトップで、運輸部門の40%以上を占めているとのこと。1機体当たりの排出量よりも機体数(台数)の方が結果に効いている印象ですので、打ち上げ頻度が低いロケットの排ガスが占める割合はそこまで大きくないかもしれません。ロケットについては正確なデータが手元にないので断言できませんが申し訳ありません。

 

5. モデルの予想結果とことなる気象状況になった場合、モデルの初期値を現状の状態に変更するのですか?

気象庁の予報はかなり高い頻度で定期的に更新していますので、実際の気象状況が予測結果と離れるよりも前に、新しい初期値を用意して次の予測を実施することがほとんどです。

6. ジェット気流の動きの予測はできますか?

ジェット気流の動きは、講演でお話しした「カオス」の影響が強く出てくる現象ですので、外れることもありますが、1カ月以内の予測であれば予測できるケースも増えてきました。

 

7. 地球温暖化の議論、計算検討のお話で自分が気になっているのは、宇宙全体でのエネルギー保存則が考慮されていない点です。地球が温暖化していれば、宇宙の何処かでは寒冷化が起きているはずで、その話がされない。今の計算機事情では計算出来ないのでしょうか?それとも、考慮しなくて良い根拠があるのでしょうか?よろしくお願い致します。

宇宙空間から地球を見た場合、宇宙から地球に入ったエネルギーと同じ量のエネルギーが反射や赤外線エネルギーとして地球から宇宙に戻されますので、エネルギー保存則は成り立っています。CO2が徐々に増加しているフェーズでは、温室効果により地球から宇宙に放出される赤外線が一時的に減るためにエネルギーがインバランスになりますが、再びつり合うようにシステムが応答して、温度が上昇します。つり合いを取り戻すまでに一時的にエネルギーの不均衡が生じますが、この不均衡の大部分を解消する役割をしているのが海洋です。つまり、大気と海洋で熱を受け渡しすることでエネルギーの保存が成り立っています。

 

8. 太陽状態のパラメータも気候変動モデルの太陽のパラメータに入れられればいいのにね。

現在の気候モデルでは、太陽放射のエネルギーは境界条件として気候モデルに与えていますが、11年周期の太陽の変動などは境界値データの中で考慮して計算することが可能です。

 

9. 地球温暖化に対する太陽の影響は二酸化炭素より強大と思いますが、データは無いのですか?

おっしゃる通り太陽エネルギーの総放射量の絶対値は莫大ですが、太陽の総放射量の変動成分は非常に小さく、二酸化炭素が変動することによる放射エネルギーの変動の方が大きいと考えられます。

 

10. もし、観測が正確に行われれば、その計算システムのモデルで、厳密な予測が出来るものなのですか。計算モデルは、完全なものですか。お話しでは、観測の精度でカオスになるような話しでしたが、どうでしょうか。

もし、パーフェクトな観測とパーフェクトなモデルが手に入れば、厳密な予測は理論的には可能でしょう。現実は、観測もモデルも完璧ではなく、それぞれがカオスを生む原因の一つになっています。

 

Q&A 諫田泰成先生「パンデミックの不確実性と創薬」

1. 次世代の若いみなさんへのメッセージをお願いします。

多くの次世代の皆様にご参加いただき、また会場でも一生懸命に聞いていただき、どうもありがとうございました。まず、科学の教科書を読んだり試験問題を解いたりするのは無味乾燥で面白くないと思います。私自身もそうでした。大学に入って、色々な実験をしたり調べたり、あるいは先輩の話を聞いたりして、サイエンスは面白いなあ、と思っているうちに、研究の仕事をしています。また、私たちの分野でも、思いがけないことから大きな発見につがながったりすることがよくあり、また教科書が書き換えられて驚くようなことも多いです。みなさんも色々なことに興味を持って、先生や周囲の方に質問したり、自分や友達とインターネットで調べたりしてみてください。面白いと思える分野などが見つかるかもしれません。次に、研究は黙々と一人で行うというイメージがあると思いますが、最近は、大きな課題をみんなで力を合わせて解決するようなことがよくあります。国際的なチームで取り組むことも増えています。仲間と一緒にサイエンスで喜べるのは素晴らしいと思いませんか?是非、一緒に議論したりできるような仲間を見つけてほしいと思います。最後に、Appleの創業者スティーブ・ジョブズ氏の言葉で、Connecting the dots(点と点をつなぐ)という言葉があります。過去のバラバラの経験が、将来、当時は思いもよらなかった形でつながって活かせるという内容です。サイエンスに関して、科学研究機構シンポジウムなど様々な機会が身近なところにあると思います。知的好奇心を大切にして是非色々なことにチャレンジしてみてください!!

 

2. 日本の医薬品承認プロセスの中で、一番時間がかかることは何でしょうか。

創薬プロセスの中で最も時間がかかるのは、医薬品のシーズを探すとこところではないかと思います。また、臨床試験により、得られた医薬品候補化合物の有効性や安全性を検証するのも大変な作業です。

 

3. ワクチン特定からワクチン開発を経てワクチン承認までの期間のどの部分がどのように短縮されたのか教えてください。今後、新型コロナ以外のワクチンの承認期間も短くなりますか?

RNAワクチン開発の技術は、すでに過去の研究で明らかにされており、確立されていました。また承認に関しては、必要なデータがそろってからワクチンの審査を開始するのではなく、データが得られたら途中途中で企業から規制当局に情報提供されたことにより、トータルの審査時間が大幅に短縮されました。このように必要な情報をすべて審査されて、承認に至っております。すべての医薬品をそのような形で進めるのは現実的ではありませんので、おそらく今後、ワクチンの審査など緊急の案件をどう審査すべきなのかさらに議論されると考えられます。

 

4. 1つの心筋細胞がコロナに感染すると不整脈を示す、ということが非常に面白かったです。細胞内部にコロナウイルスが入り込んだ影響と推測しますが、具体的に、心筋細胞のどこに影響を与えるのかは明らかになっているのでしょうか?また、そもそも心筋細胞の収縮の機構は分かっているのですか?

コロナウイルス感染により、心筋の機能に関わる遺伝子に影響することが明らかになってきております。心筋の収縮メカニズムを担っているのは細胞内のCa2+(カルシウムイオン)で、拍動ごとにCa2+濃度上昇が観察できますが、コロナウイルス感染により収縮調節の仕組みが破綻すると考えられています。なお余談ですが、今では常識となっておる「筋収縮のカルシウム説」を世界で初めて発表されたのが江橋節郎先生(東京大学名誉教授、故人)です。

 

5. 新型コロナはパンデミックしたが、サーズやマーズはそれほどではなかった。その分かれ目は何だったのでしょうか。

特定の地域のみで収束できるのかはウイルスの性質など色々な要素によると思います。事前に、その分かれ目を予測するのは難しいです。

 

6. パンデミックの発生源の解明は、パンデミックの予防や対策、創薬の開発を早められるのでしょうか?

パンデミックを予防するのは難しいのですが、その後どう対応すればいいのかを平時からよく研究を進めて、パンデミックに備えておくことが大事と思います。

 

7. コロナ感染・ワクチン接種による血栓のできやすさの評価は、採取した血液や培養細胞等によって評価・予測が可能でしょうか?

体内で血栓ができる仕組みはよく分かっています。しかし、コロナウイルス感染やワクチン接種による血栓の仕組みはまだほとんどわかっておりません。患者さんの検体など用いて、引き続き、研究を進める必要があります。

 

8. 初期によく言われていた味覚嗅覚障害はあまり言わなくなったような?

味覚嗅覚障害の程度は、新型コロナウイルスの変異によっても変わることが分かっています。

 

Q&A 柴田一成先生「太陽フレア(スーパーフレア)と宇宙天気予報」

1. 日本全体で通信障害が長い期間続いてしまった場合、対応策は現時点で決めてあるのでしょうか。

まだ決まっていません。

 

2. 太陽フレアは、生物や人体にも何か影響があるのでしょうか?

はい。フレアが原因で地球で磁気嵐が起きると、磁気の変動のせいで、伝書鳩や渡り鳥、回遊魚などが方向を見失ったり、人体では血圧が変動したりすることが知られています。自殺やうつ症、心臓疾患との関係も議論されています。

 

3. どの程度の規模の太陽フレアであれば、それから発生した荷電粒子が地球に来た場合、地上の太陽光発電パネルは全滅するでしょうか?

私の推算では、この30年間で最大級のフレア(10の32乗エルグ程度)の100―1000倍程度のスーパーフレア(3000年―3万年に一回程度の頻度)では、スーパーフレアから飛来する放射線の強度は地上では最大(上限値)0.1-1mSv(ミリシーベルト)程度です。日本ではフレアが起きなくても1年間に平均1.5mSvくらい自然放射線が存在していますので(その環境で太陽光発電パネルは動いているので)、この程度のスーパーフレアでは地上太陽光発電パネルは大丈夫だと思います。これ以上のスーパーフレアの起きる可能性は今のところあるとは言えません(科学的に証拠がない)。仮にどの程度の放射線がやってきたら太陽光発電パネルが全滅するかは、申し訳ありませんが、私には今は答えられません。(太陽光発電パネルの専門家に相談する必要があります)

 

4. かつて地球に襲来した太陽フレアからの荷電粒子が地球に与えた影響の内、その程度が最大であるのは、どのようなものであったのかは、分かっているでしょうか?またホモサピエンスの時代に限定すれば、被害の最も大きいイベントはどのようなものであったかは、わかっているのでしょうか?

地球誕生以来の46億年間であれば、最大は10の38乗エルグ(30年間で最大の太陽フレアのエネルギーの100万倍)です。これは生まれたばかりの若い星の観測からわかっています。その後、年を経るにつれ、最大の太陽フレアの程度(エネルギー)は次第に減少していきます。ホモサピエンスの時代(最近20万年)に限定した場合の最大のフレアは私も知りたいところですが、未解明です。

 

5. 11年周期を説明する仮説にはどのようなものがありますか?

太陽の差動回転と大規模な対流の相互作用により磁場が生成増幅・減衰を繰り返すというダイナモ理論が提唱されています。ただし、未確立です。

 

6. プロミネンス噴出とCMEは同じですか?それとも、プロミネンス噴出が原因でCMEが発生するのですか?

はい、大体そうなのですが、厳密に言うと同じではありません。プロミネンスとは1万度程度の低温プラズマ。CMEは日本語でコロナ質量放出。コロナは100万度の高温プラズマ。プロミネンス噴出が起きると、周辺の高温コロナのプラズマも一緒に噴出し、全部含めたものをCMEと呼んでいます。噴出の原因は、プラズマにあるのではなく、磁場構造にあります。磁場構造が不安定化して噴出したものが、プロミネンス噴出であり、CMEです。磁場に低温プラズマがくっついて噴出するとプロミネンス噴出。プロミネンスがなくても高温コロナプラズマは必ずありますので、それが磁場にくっついて噴出したものがCMEとなります。つまりプロミネンス噴出がなくてもCMEは起こりえます。

 

7. 太陽の黒点が出来ると、磁気のエネルギーが貯まると言われましたが、その磁気エネルギーが発生するメカニズムは分かっているのですか。

太陽内部での磁場の発生原因(つまり黒点の生成原因)は、まだよくわかっていません。物理的には電流が流れると磁場が発生するので、電流の発生原因がわかっていないわけです。プラズマと磁場の相互作用(発電の原理)が原因であることは確かですが、ではどのようにして相互作用が起きているのかが、未解明です。

 

8. 鉄等の金属がない太陽で磁場が発生するのは、核融合で生じるγ線やX線が関係するものなのでしょうか?

いいえ。太陽を構成している物質はプラズマ(電離した気体)ですので、電気伝導体です。電気が流れやすいという意味で、鉄の性質と同じです。そういうプラズマ(電気伝導体)が磁場を横切ると発電します。しかしその詳細は未解明です。

 

9. 太陽風が地球にぶつかる映像で、地球正面ではなく、地球の裏側に回り込んでから、北極・南極に向かっているようでしたが、どうしてこのような経路を採るのでしょうか? 地球正面に直接、太陽風が大気中に入ることはあり得るのでしょうか?

太陽風中の磁場が南向きになっている場合のみ、地球の前面で磁気リコネクション(磁力線のつなぎ替え)が起きます。すると太陽風中の磁気エネルギーが直接、地球磁気圏に侵入することができるようになります。磁力線は太陽風に引きずられて裏側まで運ばれ、そこで(運ばれた逆向きの磁力線の間で)磁気リコネクションが起き、エネルギーの流れる向きが地球向きと反対向きの二方向になります。この地球向きの流れが北極・南極に向かって最終的にオーロラを作ります。

 

10. 回転流が遅くなると対流が勝って温度が急低下する現象は、ジェット気流が弱くなったときに発生する現象(寒気流出?)に似ていますね。

そうですか?私には良くわかりません。

 

11. この辺の太陽状態のパラメータも気候変動モデルの太陽のパラメータに入れられればいいのにね

そうですね。

 

12. 黒点のペアの距離とフレアの規模に相関関係はあるのかな?

距離が大きくなれば、蓄えられるエネルギーも増えますから、より大きなフレアが発生することが予想されます。ただし厳密には黒点の面積が重要です。黒点ペアの距離が大きくても黒点面積が小さければ、大きなフレアは起きません。

 

13. 同位体分析で過去の太陽活動は分かるでしょうか

はい。屋久杉などの年輪中の炭素14の分析から過去5000年間の太陽活動の長期変動の様子が明らかになっています。

 

14. 地球温暖化に対する太陽の影響は二酸化炭素より強大と思うが、データは無いんですか?

研究が進められつつありますが、問題は簡単ではありません。まだ確かなことはわかっていません。経験的には黒点が減ると地球は寒冷化し、増えると温暖化すると言えます。しかし、その物理的メカニズムが未解明です。気候変動に対する太陽の影響に関する研究は、もっと奨励すべきだと思います。

 

Q&A 居田克巳先生「高温プラズマの不確実性:突発現象のトリガー」

1. 突発現象について。大きな変化の影響で発生するものと、小さな変化がたまりにたまって発生するものがあるのか。また、それの大小によって突発現象のエネルギーの大きさは異なるのか。

突発現象は、小さな変化がたまりにたまっているにもかかわらず発生しない状態が長く続き、突然大きな変化になって発生するものをいいます。つまり小さな変化が突然大きな変化になって発生するものを突発現象といいます。